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インタビュー

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2年目のジンクスなど存在しない! 燃え上がるフロリダのヒップホップ・シーンにてギラギラした個性を発揮するストリートの猛者、プライズがリアルにやる理由……


 「俺はアルバムが何枚売れたかで評価されたいなんて思ったことはないぜ。何を主張しているかで評価されるほうがよっぽど重要だと思うからな」。

 と、あくまで硬派な態度を貫くフロリダ州フォートマイヤーズの無頼漢・プライズだが、きっと内心は笑いが止まらないんじゃないだろうか。というのも、前作『The Real Testament』から約10か月という短いスパンでリリースしてきたニュー・アルバム『Definition Of Real』がリリース初週で21.4万枚という好セールスを達成したかと思えば、ジャネット・ジャクソン“Come Back To Me”を引用した先行シングル“Bust It Baby Pt.2”も全米最高7位につける大ヒットを記録するなど、やることなすことすべてが上手くいっているのだから。

 これでプライズはメジャー・デビュー・シングル“Shawty”から3曲連続でTOP20ヒットを放っていることになるわけだが、むしろ注目すべきは彼がフロリダ・ヒップホップ隆盛のシンボル=リック・ロスをも上回る成績を叩き出したという事実だろう(ロスの最新作『Trilla』の初週セールスは19.8万枚だった)。

「前の『The Real Testament』からたった10か月でストリートにふたたび音楽を提供できるなんて、本当に嬉しいことだね。要はみんなが俺の曲を聴きたがってるってことだろ? それがどれだけ特別なことなのかは自分自身よくわかってるつもりだよ」。

 つまりこれはどういうことかというと、プライズの個としての魅力がシーン内に確立されつつある、ということだ。T・ペインとの“Shawty”にエイコンとの“Hypnotized”、共に2007年のトレンドを象徴するようなヒット曲だが、現地のリスナーはそれらを必ずしも流行のT・ペイン曲/エイコン曲として享受していたわけではなく、むしろそこにプライズならではのスペシャリティーを聴き取っていた、ということだ。そういえば、彼は“Shawty”がヒットした直後にわざわざ未シングル曲“100 Years”のプロモ・クリップを作ってシリアスな題材も扱えることをアピールしていたが、今回の新作を巡る好反応はそういった試みが実を結んだ結果でもあるのだろう。

「俺のアルバムに登場するラッパーは俺だけ。それは俺にとってとても重要なことだ。一枚に7人も8人もラッパーをフィーチャーしてるアルバムなんて、俺に言わせりゃコンピレーションさ。俺のヴィジョンを実現するのに他の奴の手助けはいらないね」。

 そう、R&Bタッチのメロディアスな曲が多いことで誤解を招きやすいところがあるが、プライズとはまさにこういう男。いまどき珍しいぐらいにラッパー然としたラッパーなんである。このコメントにあるとおり、今回も前作同様ラッパーの客演は一切ナシ。“Bust It Baby Pt. 2”でのニーヨ以下、計6名に及ぶゲストはすべてシンガーで占められている。汗まみれで愛し合う男女の姿が浮かび上がってくる濃厚なラヴソング“Feel Like Fuckin'”、パティ・ラベルの“Somebody Loves You Baby”を大胆に取り込んだ哀愁曲“Somebody(Loves You)”など、やはりメロウ・トラック映えする吐き捨てるようなチンピラ口調にはグッとくる。

「〈リアルの定義〉なんてのは、誰に訊くかで変わってくるもんさ。多くの奴らは何回刑務所に入ったとかストリートでどれだけの人間を殺ったかで〈リアル〉かどうかが決まるって考えてる。でも、そいつは間違ってるんだ。俺にとってのリアルとは、尊敬される父親になること、システムの犠牲になった仲間を支援するネットワークを作ること、信念を貫くこと、そして何年も俺についてきてくれた奴らを絶対に裏切らないことだ」。

 こうしたまっすぐな義侠心が時として他者との軋轢を生むのだろうか、現在プライズはウェビーやブラッド・ロウ、そして何とトリック・ダディからもディスられているが、この男なら逆風をものともせずにわが道を邁進していくに違いない。年内には早くもサード・アルバム、その名も『Da Realist』が控えている。

▼『Definition Of Real』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月21日 21:00

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/高橋 芳朗