sgt.

〈幻想的〉で〈型破り〉な一大叙事詩を奏でる百戦錬磨のインスト・バンド

　　音と音とがぶつかり合うビッグバンが果てしなく繰り返されている。覇気と呼べばよいのだろうか?　未だ見ぬ新世界を目指して果敢に突き進んでいく猛者のような気迫が、スピーカー越しにビリビリと伝わってくる。ROVO周辺アーティストとの交流、mouse on the keys、kowloon、miaou、54-71をはじめとした強者バンドたちを招いた自主企画、元カンのヴォーカリストであるダモ鈴木と繰り広げた即興ライヴ――。百戦錬磨のインストゥルメンタル・バンド、sgt.が完成させたファースト・フル・アルバム『Stylus Fantasticus』は、言わば、音によって聴き手の想像力を大きく押し広げ、それぞれの意識をみずからの脳内宇宙へと羽ばたかせる一大叙事詩である。
　
　「確かに〈想像〉というキーワードは大事にしてますね。歌がないぶん、聴いた音からどんな世界観を思い浮かべるかは、聴き手に任せるしかないですからね」（明石興司、ベース）。

　　アルバム・タイトルに冠された〈Stylus Fantasticus〉とは、即興的な作風を示すクラシック用語。通常は〈幻想様式〉と訳されるが、同時に〈即興＝みずからのカタルシスのみに従うプレイ・スタイル〉という意味合いから、〈型破りな様式〉とも呼ばれる。恐ろしくタイトで硬質なベースライン、豪快かつデリケートなドラミング、幽玄に浮遊したかと思えばメタリックなリフを炸裂させたりと、天衣無縫な曲線を描きゆくヴァイオリンの旋律。そこへ金属質のフィードバック・ギターやアルト・サックスの獰猛な咆哮を交えながら、彼らはクラシック～ジャズ～エモ～インプロヴィゼーション～トランス～ポスト・ロックのあいだに屹立する壁をことごとく破壊してゆく。今年2月にギターの向山聡孝が脱退し、第一期sgt.の総まとめとして制作が始まったという本作において、3人はたおやかな様式美と勇ましい攻撃性を見事に両立させている。

　「特にヴァイオリンは攻撃的になったんじゃないですかね?　勝井（祐二）さんの弟子ですから（笑）」（明石）。

　「特に指導はないんですけどね（笑）。ただ、見てるだけでも〈そういう弾き方があるんだ〉〈そういう攻め方があるんだ〉っていう発見があるので、そこで得たものが自分のなかで消化されて、sgt.に還元できてるのかな、って思います。今回のアルバムは、けっこう周りからも〈攻めてる〉って言われることが多いんですよね」（成井幹子、ヴァイオリン／ピアノ）。

　「明石と僕も、よりコミュニケーションが取れるようになってきてますね。曲の作り方が〈リズム隊でベーシックを固めたうえでウワモノ隊にプレゼンする〉っていう方法へ移行したことで、ふたりでスタジオに入る機会も増えましたし。まずは明石のイメージがあって、言われたように叩いてみる。明石が最初に思い描いていたものとは違うかもしれないんですけど、試行錯誤しながら、とりあえず形にしちゃうんですね」（大野 均、ドラムス）。

　「イメージと言ってもそんなに細かいものではなくて、見せ場というか、この曲で何をやりたいか、っていうことを伝えるんです。僕の説明は抽象的なんですが、僕が求めてること、考えてることに対するレスポンスは本当に早いですよ」（明石）。

　　緊密でありながら自由度の高い彼らの楽曲は、大胆なキメ、猛々しいうねり、詩的な静寂、轟音渦巻く混沌と、目まぐるしく音像を切り替えながら、一編の流麗なストーリーを描き出してゆく。どこまでもスリリングで、どこまでもドラマティック。そんな音楽絵巻を耳で追うことで、聴き手はかつて足を踏み入れたことのない美しき幻想の世界へと辿り着く。

　「ファースト・ミニ・アルバムが出来た時点から、次はフル・アルバムを作りたい、っていう思いはずっとあったんですよね。自分たちでゴーサインを出せる曲がちゃんと揃えば、自然とひとつの物語が出来上がるっていう自信もありましたし。ボツになった曲もたくさんあるなかで、今回はようやくそういう楽曲が揃いました。聴く人それぞれだとは思いますが、トータルでひとつの大きな流れを感じてもらえる作品になったんじゃないかと思ってます」（明石）。

sgt.　『Stylus Fantasticus』
1. すばらしき光（♪試聴する）
2. 囚人のジレンマゲーム（♪試聴する）
3. 白夜（♪試聴する）
4. 声を出して考える方法
5. 再生と密室（♪試聴する）
6. 記憶の島の月
7. 銀河を壊して発電所を創れ
8. ムノユラギ