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インタビュー

Bring SOUL back in R&B! ソウル復権……歌への回帰がゆったり進む、R&Bシーンの現在地

 数年前からメインストリームR&Bにおいて地味な一群となっていたディープで濃厚な歌モノが、いよいよ本格的な勢力となってきた。つまり、ジャヒームやライフ・ジェニングスらに始まってノエル・ゴーディンなどへと続く、〈R&B〉というより〈ソウル〉と呼んだほうがしっくりくる歌コンシャスな男性シンガーたちの活躍。時には古めかしささえ漂わせながら、ストレートにソウルを歌う者たちが増えてきたこの傾向が、シーンの進展を意味するのか、後退を意味するのか、現時点では判断がつきかねる。けれど、ヴォーカルが命のR&Bにとって、これは歓迎される動きではあるはずだ。進展とか後退といった次元で片付けずに、これを成熟だと捉えてみてはどうだろう。

 その〈成熟〉の前段階と言えたのが、いわゆるネオ・ソウルのブームだ。ネオ・ソウルは、簡単に言えば、ヒップホップ時代に育った若手アーティストが70年代ソウルなどへの憧れを交えながら、いまのグルーヴで自分たちの世代のソウルを作るというもの。そうしたなかで古いソウルのロウな音への欲求が高まり、歌に対しても誠実でありたいという意識がシーン全体に芽生えはじめた。つまりネオ・ソウルは、ミュージシャンシップが希薄な一部のメインストリーム勢に対するアンチな気分を孕んでいた(ように見えた)わけだが、一方で当の本人たちは、そこに必要以上に崇高な精神性を見い出したがる外野の声に対して、〈ただソウルをやっているだけだ〉と冷静でもあった。ブツ切りのビートやラップ風の歌唱といった独特の表現方法もあるネオ・ソウルだが、ソウルを歌うという根本は昔と何も変わらないのだ、と。そんななかで、ネオ・ソウルとメインストリームの壁を越えてみせたのが、ネオ・ソウル人脈と繋がりがあり、歌コンシャスでもあったアンソニー・ハミルトンやジョン・レジェンドだったと言えよう。

 その後、カニエ・ウェストによるソウル・ネタの速回し、ニーヨのブレイクに伴う美しいメロディーや歌の復権、USブレイクしたエイミー・ワインハウスの狙いすましたオールド・スクール回帰なども影響してか、以前なら古臭く時代遅れとされたようなスタイルを取り込むシンガーや作品が、ネオ・ソウルとは異なる文脈から続々登場。さらに最近、デビュー時にはネオ・ソウルと括られていたラヒーム・デヴォーンが“Woman”でありったけの歌心を示し、メインストリームを歩んできたタンクなどもビートより歌に比重を置くようになったせいか、ヴォーカルそのものへの注目も集まりはじめた。数年前からアルバム・リリースを待機していたノエル・ゴーディンや(クルーナ改め)キアンソニーのような濃い口のシンガーが出てきたり、エリック・ベネイがデビュー時のようにクラシックなテイストの新作を出してきたのも、そうした影響なのかもしれない。一方で、南部のヒップホップとリンクしながら古き良き南部への回帰を見せるシンガーの活躍も目立つ。少し前ではアーバン・ミスティックやカヴァナー、また強力な新作を出したばかりのロイ・アンソニーやビリー・クックといったボビー・ウォマックなどに通じる彼らのディープな歌唱は、同じ志のシンガーにも勇気や刺激を与えていることだろう。そして、メインストリームで酸いも甘いも噛み分けてきたジョーやデイヴ・ホリスターは、より自分の歌が発揮できる舞台を求めて心機一転を図った。いまやジェラルド・リヴァートの不在を嘆く暇もないほど、R&Bの世界では多くの愛すべき歌バカたちが自慢の喉を震わせてくれているのだ。
▼文中に登場したアーティストの近作を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月16日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/林 剛

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