インタビュー

新展開を迎えるキツネにもますます注目!! その1

  「キツネは俺たちをより広い範囲のオーディエンスと繋いでくれるパイプなんだ。芸術性を保つためには、それってもっとも重要なことなんだよ。俺たち自身をこんなに自由に表現させてくれそうなレーベルなんて他に思いつかないね」とはデヴィッド・コックスの弁。2002年に最初のコンピ『Kitsune Love』をリリースして以来、キツネはレーベルとして着実にステップアップし、首謀者であるジルダ&マサヤの確かな審美眼によって新たなトレンドを創出しながら、さまざまなアーティストを輩出してきた。特に2005年からスタートした〈Kitsune Maison〉シリーズはニュー・エレクトロ~ニューレイヴという言葉に集約される大きなウネリをシーンにもたらす原動力となったものだ。

 ただ、そのせいでキツネ=ロッキンなダンス・ミュージックという一面的なイメージが多くのリスナーに染みついてしまったのは事実だろう。実際にはさまざまな音楽性を持つ面々が集っていても、コンピを中心とした楽しまれ方であるがゆえに、個々の志向が見えにくくなっている部分もあったのかもしれない。そんななか、オートクラッツのアルバムと時を同じくして〈Maison〉コンピの第7弾『Kitsune Maison Compilation 7』がリリースされる。今回はいままで以上にフレッシュな雰囲気で、トゥー・ドア・シネマ・クラブやウィー・ハヴ・バンド、シャトー・マーモンなどここ最近レーベルが押している面々が並ぶ様子からは、アーティストを長期的に育ててキッチリとオリジナル作にまで繋げていこうというジルダ&マサヤの新しいヴィジョンも透けて見えるようだ。特に今後が期待できそうなのは〈薔薇と彼女の王子〉を提供したハーツレヴォリューションで、そこで聴けるドリーミーな歌もの路線はアヴァランチーズなんかを連想させもする。以下に紹介したデジタリズム以降の全タイトルも含めて楽しんでもらえれば、このレーベルの持つさまざまな側面が見えてくるはずだ。(出嶌孝次)

DIGITALISM 『Idealism』 Kitsune/Labels/Virgin(2007)
ライセンスものを除けばキツネ初のアーティスト・アルバムとなったのが本作。2004年のレーベル入りからヒットを積み上げてきた彼らの足取りは、キツネ自体の躍進に直結した。最近はピーチズのプロデュースを手掛けたばかり(こちらを参照)。
(出嶌)

『Kitsune Boombox Mixed By Jerry Bouthier』 Kitsune(2007)
元はプログレ・ハウス畑のジェリー・バウザーによるキツネ初のミックスCD。彼自身のユニットであるJBAGのエディットも織り交ぜつつ、ヤング・パンクスやヴァン・シー、ガンズ&ボムズらのトラックで攻めかかるアッパーな流れがよろしい。
(出嶌)

『Kitsune Maison Compilation 5』 Kitsune(2007)
定番シリーズの第5弾。〈サマソニ〉のステージとアルバムそれぞれが2008年を沸かせることになるイェールとレイト・オブ・ザ・ピアーを筆頭に、ブレイク必至のオートクラッツやデヴィッド・シュガーなど2009年の注目株も収録。先見性がありすぎ!
(青木)

『Gildas & Masaya: Paris』 Kitsune(2008)
仕掛け人コンビみずからが登場した〈都市シリーズ〉は彼ら初のミックスCD。当然〈Maison〉シリーズとは異なり、こちらは完全フロア仕様でアゲまくり! カニエ・ウェストも魅了されたキュートな新人リトル・ブーツを終盤の美味しいところでドロップ!
(青木)

CAZALS 『What Of Our Future』 Kitsune(2008)
レーベル初の本格ロック・バンドとして鳴り物入りで登場。2004年のデビュー時はさほど目立たなかったが、〈Maison〉シリーズの2作目に抜擢されて成功へと至る。キツネからのリリースをきっかけに存在をクローズアップされた典型的な例だ。
(青木)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年06月03日 17:00

更新: 2009年06月03日 17:20

ソース: 『bounce』 310号(2009/5/25)

文/青木正之、出嶌孝次