インタビュー

KERI HILSON(2)

ただ音楽を愛してるだけ

 ケリのコメントにあるようにゲストを迎えた曲は決して多くないが、それぞれが非常に濃密な内容になっている。エイコンのスケールの大きな歌唱が感動的な“Change Me”、キーシャ・コールとトリーナを交えての赤裸々なガールズ・トーク“Get Your Money Up”、「男性にされてグッとくること、引いてしまうことについて歌った」というリル・ウェインとの“Turnin Me On”などもいいが、やはり全米チャートでTOP3入りしたカニエ・ウェストとニーヨとのコラボレーション“Knock You Down”をハイライトとしたい。

 「“Knock You Down”はケヴィン“KC”コッサム(ヤング・ジーズィ“Go Getta”やリック・ロス“Speedin'”などを手掛けたフロリダのシンガー・ソングライター)が書きはじめた曲で、後から私が歌えるようにいっしょに書き直したの。ニーヨとはずっと前からいつかコラボしたいねって話していたんだけど、なかなか相応しい曲に出会えなくて……でも、この曲だったら彼と歌うのにぴったりだと思った。カニエの参加については、まったく考えてもみなかった。レコーディングの終盤に“Make Love”のビデオ撮影でカニエと会った時、思い切って〈アルバムの出来には200%満足してるけど、それを300%にするにはあなたが参加するしかない!〉って言ってみたの(笑)。カニエの答えはイエス。彼の気持ちが変わる前にスタジオを予約して、次の日にはレコーディングしたわ」。

 こうした豪華ゲスト陣との共演、そしてデンジャやポロウらによるカッティング・エッジなプロダクションがアルバムの大きな聴きどころになっているのは間違いないが、「ケリ・ヒルソンが誰なのかを定義する作品」という基本コンセプトにぶれはない。特に本作は、まだ未知数なところがあったケリのシンガーとしてのポテンシャルを強烈にアピールすることになるだろう。

 「私の声はちょっとかすれてるところがユニークだと思うの。この声だからこそ、私のソウルを表現できると思ってる。影響を受けたシンガーはローリン・ヒルとダニー・ハサウェイ。それからインディア・アリーも大好き。でも私はジョージアの出身だけど、ブロンディやマドンナ、それからジョージ・マイケルとかフィル・コリンズなんかも聴いて育った。人種は関係ないのよ。音楽は音楽だもの。音楽はいまふたたびそういうものに戻りつつあるわ。それが凄く嬉しい。私のこうしたすべての影響を、なんの気兼ねなく表現することができるんだもの!」。

 14歳の頃から業界に身を置きながらも、いまもなお音楽に寄せるピュアな衝動を手放そうとしないケリ。『In A Perfect World...』を覆う清々しさは、そんな彼女の真摯なアティテュードによってもたらされているのかもしれない。

 「私は何も計画しない。音楽をやりながら、ただハッピーでいたいだけ。自分が他の人よりも才能があるなんて思わないし、ただ音楽を愛しているだけなの。その情熱が燃え続ける限り、活動を続けていきたいと思っているわ。本当にそれだけよ。そもそも、私はラウンジで歌ってるだけでも幸せになれるんだから(笑)」。

▼『In A Perfect World...』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2009年07月01日 18:00

ソース: 『bounce』 311号(2009/6/25)

文/高橋 芳朗