インタビュー

FLORENCE AND THE MACHINE

おとぎ話のサントラみたいな、この掴みどころのない音楽はいったい何? 喜びも 悲しみも怒りも虚しさも……心のなかにある感情が全部溢れ出てしまいそうだよ

新感覚のフォーク!?


  フォーク・ミュージックの在り方が年々変化してきている。おまけに、その変化が確実にオーヴァーグラウンドまで浸透していることを、痛感させられている人も少なくないだろう。デヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムあたりからさらに一世代後、とでも言えばいいだろうか。ライトスピード・チャンピオンが英米のプレスで高い評価を得たり、フリート・フォクシーズやグリズリー・ベアがUSチャートで好成績を残したり……といったように、若いアーティストたちの作品が一部愛好家の趣味を超えて受け入れられているようだ。

 同時に、〈フォーク・ミュージック=アコースティックなもの〉という概念も徐々に崩れつつある。近年はアニマル・コレクティヴなどのようにヒップホップ、サイケ、アフロビート、ポリリズムといった要素が混在するような音楽も、場合によっては〈フォーキー〉という表現で音の感触が伝えられることが多い。言わば、アコースティック・ギターを抱えてパーソナルな詞世界を告白する手段から、内的な感情を音の手触りで表現する方法論へ。あくまで〈フォーク〉はスタイルではない、ということなのかもしれない。

 ロンドンの老舗レコード・ショップ、ラフ・トレード周辺では〈Nu Folk〉として紹介されることもあるという、そうした〈新感覚のフォーク〉をさらに後押ししているのが、すでにファースト・アルバム『Lungs』がUK本国で話題となっているフローレンス・アンド・ザ・マシーンだ。過去には、まだシングルを2枚しかリリースしていない状況にも関わらず、〈ブリット・アワード〉で話題の新人に贈られる〈クリティクス・チョイス〉に選ばれ、ブラーのリユニオン公演ではオープニング・アクトに指名され、と飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のニューカマーである。

 そういうわけで、日本盤化されたばかりのデビュー・アルバム『Lungs』からは、一般的なフォーク・ミュージックとしての要素はほとんど感じられない。それどころか、多くの曲でアグレッシヴな彼女の持ち味が活かされていて、力強いビートを前面に出したアレンジのものも多い。トラディショナルなフォークを期待すると間違いなく肩透かしを喰らうだろうし、本人にもフォーク・アーティストとしての自覚はないようだ。しかし、彼女のサウンドからは明らかに〈フォークの質感〉を感じ取ることができるのもまた事実。

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掲載: 2009年08月05日 18:00

更新: 2009年08月05日 18:01

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/岡村 詩野