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インタビュー

いまが旬の〈ニュー・フォーク〉な感覚を徹底解析!! (その1)

 今年2月にロンドンのラフ・トレード・ショップで買物中にふと気付いた。いち早くインディー・シーンの動きを紹介するこの店ではCDにジャンルと作品の推薦文を記したシールが貼られているのだが、そこに〈Nu Folk〉という新カテゴリーが加わっていたのだ。なるほど、そう思いながらシーンを見つめると、フリー・フォーク以降で、かつドラッグの香りを感じさせないフォーク・サウンドが席巻中だ。しかもインディー発でありながら、今年に入ってアンドリュー・バードやグリズリー・ベアなど全米チャートの上位を記録する作品まで登場している。

 このニュー・フォークがインディー界で注目を集めはじめた直接的な契機は、昨年のフリート・フォクシーズの大ブレイクだろう。それに先立ち、ジョアンナ・ニューサムの2006年作『YS』における高評価も大きいと思う。また、UKではライトスピード・チャンピオンやノア・アンド・ザ・ホエールの登場で、土壌としてのフォーク・ミュージックへの親近感が育まれていた。ただ、もともとUSにはボニー“プリンス”ビリーやM・ワードらを筆頭とする現代フォーク・シーンがしっかりと根付いている。そう考えると、今回のニュー・フォーク・ブームで鍵を握っているのはUKだ。

 特徴としてまずミュージシャンが若い。10代から20代前半中心で、USの現代フォーク・アーティストに影響を受け、そして自分たちの言葉で発信しはじめたというわけだ。アコースティックの多用などサウンドでのフォーク性で注目されるようになったこのシーンも、今年に入って本来の意味でのフォーク的、つまり歌詞がことさら見事なエミー・ザ・グレイトが登場。加えて、真打ちのフローレンス・アンド・ザ・マシーンもアルバム・デビュー……とますます目が離せなくなってきた。

LIGHTSPEED CHAMPION
『Falling Off The Lavender Bridge』
 Domino(2008)
元テスト・アイシクルズのデヴ・ハインズによる初のソロ作。サドル・クリーク作品でお馴染みのマイク・モギスとUSオマハにてレコーディングした本作は、当時UKでフォーク色を持つ新作がほとんどなかったため人々を驚かせた。

NOAH AND THE WHALE
『Peaceful, The World Lays Me Down』
 Interscope(2008)
UKニュー・フォークの流れを生み出したバンドの一つで、このデビュー作で全英5位を記録した4人組。ボニー“プリンス”ビリーなどUS現代フォーク勢からの影響を受けつつ、溌剌とした作風ゆえにポップな印象を残す。

GREGORY AND THE HAWK
『In Your Dreams』
 Pearly Gates!/Pヴァイン(2007)
日本盤化されたばかりの、NYブルックリンのバーで発掘されたメレディス・ゴドルー嬢によるデビュー作。ギターの爪弾きと、甘くて柔らかく消え入りそうな歌声で、揺らぎのある旋律が丁寧に紡がれていく。昨年リリースされたセカンド・アルバム『Moenie And Kitchi』も要チェック!

JAMES YUILL
『Turning Down Water For Air』
 Nettwerk(2009)
ここで紹介している顔ぶれのなかでは、もっともフォークトロニカ色の強いUKのシンガー・ソングライター。プログラミングや強めのビート、性急なリズムなども用いつつ、柔らかさを耳に残すアコースティック・ギターと歌声を丁寧に重ねて、独特のテクスチャーを生み出すことに成功している。

DANIEL IN THE LION'S DEN
『Daniel In The Lion's Den』
 XL/YOSHIMOTO R and C(2009)
ケイジャン・ダンス・パーティーのフロントマンによる初のソロ・アルバム。徹底的にローファイなピアノやギターの音色と歌声のシンプルで美しい響きが、この少年の豊饒な音楽的背景を実感させてくれる。ラムチョップのマーク・ネヴァースをプロデューサーに迎え、ナッシュヴィルで録音された一枚。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年08月05日 18:00

更新: 2009年08月05日 18:01

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/妹沢 奈美