インタビュー

JAY-Z(2)

音楽性が隅に追いやられてる

 ジェイが〈D.O.A.〉で行なった過激な問題提起は単に衆目を引き寄せるだけでなく、なぜ今回の新作をクラシック・シリーズ『The Blueprint』の続編としてリリースするのか、その意義をわかりやすく提示してくれたようなところもあった。そして、「いまのヒップホップでは音楽性が隅に追いやられていることを表現した」という印象的なジャケットのアートワークが発表される頃には、ジェイの描く〈青写真〉がより明確に浮かび上がってきた。

 「アルバムのコンセプトを端的に言うと〈ニュー・クラシック〉だね。ここでは基本に戻るというか、人間の感情から音楽を作るという当然の規律に則っている。それがこれからの音楽のあるべき姿という意味で、あえて今回の新作を『The Blueprint 3』にした。これから音楽がどうなっていくかっていうのを表現してみたかったんだ」。

 ジェイ自身とカニエ・ウェストがエグゼクティヴ・プロデューサーを務める今回の『The Blueprint 3』は、カニエの『808s & Heartbreak』と同様、ほぼ全編の録音をホノルルで敢行。リアーナとカニエを従えて高らかに勝利を告げる全米TOP3ヒット“Run This Town”、スウェイのプロダクション・パートナーであるUKのアル・シャックスが制作にあたったアリシア・キーズとのNY賛歌“Empire State Of Mind”など、サンプリングを多用しながらもあくまで現行シーンのトレンドを踏まえたモダンなサウンド・デザインは、まさに〈ニュー・クラシック〉と呼ぶに相応しい。オーストラリアのエレポップ・デュオであるエンパイア・オブ・ザ・サンの片割れルーク・スティール、2009年のブライテスト・ホープ最右翼たるドレイク、ロック・ネイションの第1号契約アーティストとして注目を集めるJ・コール、“Day 'N' Nite”を英米でヒットさせたG.O.O.D.の新鋭キッド・カディ、やはりG.O.O.D.のニューカマーである英国人シンガーのMrハドソンなど、数々のフレッシュなタレントの抜擢もそんなアルバムのイメージを強調することに繋がっているようだ。

 「いままでの俺の歴史を見てもらえばわかると思うけど、俺はいつでも新しいアーティストを抜擢してきた。カニエやT.I.だってそうだし、ルーペ・フィアスコやサンティゴールドにしてもそう。いつだって新人アーティストのキャリアの初めにチャンスを与えてきた。新しいアーティストのエネルギーが好きなんだよ」。

▼『The Blueprint 3』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2009年09月24日 19:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/高橋 芳朗