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インタビュー

浅井健一

怒濤のSHERBETS10周年を終え、新たなブレーンとの出会いをきっかけにソロ活動を再開! グングン突き進む彼のロック道はまた次のフェイズへ――


  浅井健一名義の作品としては約2年ぶり、通算4枚目のニュー・アルバム『Sphinx Rose』が届いた。昨年はSHERBETSとして非常に活発な活動をしていただけに、この展開を唐突に思う人もいるかもしれない。実際、今回のソロ・プロジェクトには多分に偶発性の要素も含まれている。そのあたりの事情について、浅井健一自身の口から語ってもらおう。

深沼くんがいないとできんかった

 「去年1年間はSHERBETSで思いっきりやろうと思っとってさ。俺はSHERBETSでやるのが大好きで、あのバンドではいろんなミラクルが起きるし、それはそれでアリなんだけど。深沼くんと2人のやりとりでもこのくらいのレヴェルの曲ができるということを知ったからさ。いちばん初めに“SPRING SNOW”が出来た時に、〈あ、これはSHERBETSではなく、ひとりでもスゴイものが出来るかも〉と思って、それでひとりでやってみようと……いや、ひとりじゃないな。深沼くんがいないと、できんかっただろうね」。

 そう、今回は浅井のソロ作ではあるがもうひとり重要なキーパーソンがいる。それが〈深沼くん〉こと深沼元昭だ。90年代に彼がやっていたバンド=PLAGUESと、浅井のブランキー・ジェット・シティの活動していた時代はほぼ同時期だが、接点はごく最近までなかったという。

 「知り合ったのは去年の10月。俺がLA-ZYgunsBRISKYのプロデュースをしたんだけど、深沼くんは彼女たちのファースト・アルバムのプロデュースをやっとって。で、その時の音を聴かせてもらった時に〈この音を作ってるのは誰?〉という話になって、深沼くんを紹介された。それでまたLAZYgunsBRISKYのレコーディングにも入ってもらったんだけど、人間性がすごい真っ直ぐな人だから、気持ちいい感じでコミュニケーションが取れたんだよね」。

 PLAGUES時代からデモテープを打ち込みで完璧に作り上げていた深沼。彼のソロ・プロジェクト=Mellowheadの活動でも、コンピューターを使いながら生々しいロック・サウンドを作り上げることにおいて、非常に高い評価を受けている。

 「そうなんだよね。だから今回、難しいことは全部深沼くんがやってるから(笑)。そもそも自分にはないものが彼には備わってるからやれるなと思ったんだよね」。

 かくして、いままで経験したことのない刺激を得た浅井の頭のなかに、新しい曲がどんどん湧き上がってきた。作業は深沼のプライヴェート・スタジオで行われ、ほとんどの録音が今年の4月までには終わっていたというから、わずか半年でアルバムは完成したわけだ。

 「いままではデカいスタジオを借りてやっとったけど、今回はマンションの一室でやってるから。初めに“SPRING SNOW”が出来て、その次に“光のスクリュー”が出来て……ゆっくりめの曲は小さな部屋でもできるだろうなと思って、そういう曲から入っていったんだけど。でも実は激しい曲も全然そこでできるということが途中で判明して、どんどんやっていった」。

 曲調やメロディー、歌詞のテーマなどはこれまでの彼のスタイルをごく自然に貫いたものばかり。すべてがシンプルで明確で独創的で、それはSHEREBETSでもソロ名義でも、生のバンド・サウンドでも打ち込みでも変わらない。ただ割合としてはアコギを使ったスロウでメロディアスな曲がこれまで以上に多く、彼のそういう側面が好きな人はじっくりと楽しめるだろう。もちろん、ドライヴ感たっぷりなアップテンポのナンバーもちゃんとあるけれど。

 「楽器の担当は曲によって違うんだけど、ベースはほとんど深沼くんが弾いたかな。“スケルトン”のベースは俺が弾いたんだけど。ギターは、フレーズものはだいたい俺が弾いとって、アルペジオとか後ろで鳴ってる変わったコードとかは深沼くんが弾いてる場合が多い。コーラスも、コーラスのメロディー自体は俺が作るんだけど、ハモの音程だとか、そういうアイデアを深沼くんが出してくれたかな。歌も、いままでとは感じが違って聴こえるよね。マンションの部屋で歌ってるから、素な感じだし。そうすると何か違うんだろうね」。

 例えば、先行シングル“Mad Surfer”は2本のギターがスリリングに絡み合うリフやファンキーに弾むビート、ダークで妖しいムードが格好良いナンバーで、“チーズバーガー”はアッパーな踊れるリズムにグルーヴィーなオルガンや激しいギター・リフが鳴り響く。この2曲を並べて聴いてもまったく違和感はないが、前者は打ち込みのリズム、そして後者は生身のビートだ。先に種明かしをしてしまったが、どっちがどっちなのかを一聴して聴き分けられる人はまずいないだろう。

 「“チーズバーガー”はね、SHERBETSのメンバーで録ったんだよ。それと“SENSATIONAL ATTACK”と“COOLER”は人間のリズム。わかんないでしょ? それだけ深沼くんの作ったサウンドが生々しいってことかな」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年09月30日 18:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/宮本 英夫