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インタビュー

the pillows 『トライアル』



メンバー個々の活動を挿みながら、結成して20年以上経過してもなお、その動きを止めることなく走り続けている。通算18枚目(!)の新作なのにこのフレッシュさとはいったい……!!



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〈センスのいい高校生〉のようでありたい

「99年に『RUNNERS HIGH』というアルバムを出したあたりから、急激に下の世代のバンドから〈ファンです〉みたいに言われるようになったんです。いまの若いバンドってイヴェントとかでいっしょになったら必ず挨拶に来てくれたりするんですけど、僕ら、若い頃からそんな挨拶回りみたいなことしたことなくて……まあ愛想が悪かったんですよね(笑)。でも、99年頃に初めてGOING UNDERGROUNDのメンバーなんかが声をかけてきてくれて。メチャクチャ嬉しかったですね。〈僕らを慕ってくれる若いバンドもいるんだ〉って。ただ、それでもいまだに〈先輩バンド〉って実感がまったくないんです」(山中さわお、ヴォーカル/ギター)。

89年に結成されたthe pillowsは、明けて2012年、実に活動23年目に突入する。ほぼ四半世紀というキャリアは、彼らが絶対的なリスペクトを捧げるTHE COLLECTORSを見習うかのようなロングラン。初期のリーダーで、その後プロデューサーとして活躍していく上田ケンジ(健司)が脱退し、現在のトリオ編成になってからもすでに20年近くが経過した。そんな彼らだが、初めて楽器を手にした高校生バンドのような危なっかしさを感じさせながらいまなお暴走している。今回取材に応じてくれたリーダーの山中さわお自身、the pillowsというバンドのテーマがそうした〈拙さ〉にあることを認めているようだ。

「そうです。いつまでも〈センスのいい高校生〉のようなバンドでありたい。流石にそろそろ〈センスのいい大学生〉になりつつありますけど(笑)、技術的なことをひけらかすようなバンドには興味がないんですよ。拙さというのがロックやロックンロールの持つ大事な要素のひとつだと僕は思っているんで、リスナーとして聴く場合でもそういうバンドにいまでも惹かれますね。そもそも僕ら、音にまったく大御所感がないでしょ。普通にほぼ毎年アルバムを出してツアーもしてるし。だから、スタジオで練習してても、メンバーの誰かが手慣れた感じで弾いたりしたら僕がブレーキかけますからね。そういう大人っぽいのダメって(笑)。ジャズっぽくてもいいんだけど、本格的なのじゃなくて、例えばキュアーがやるようなジャズ、みたいな解釈でいてほしいんですよね」。

大人っぽいのはダメ……とは言っても、山中さわお、真鍋吉明(ギター)、佐藤シンイチロウ(ドラムス)は全員40代。真鍋に至っては2012年で50代を迎える。おのずと旨味が浮かび上がってきても不思議ではない年齢だが、それこそが自分たちの敵だと山中は危機感を剥き出しにする。

「もちろん、そうやって意識的に熟練にならないようブレーキをかけたりしてるんですけど、少なくとも僕自身はどんなものにも夢中になれるし、結構自然に無邪気でいられるんです。というのも、僕は憧れのバンドはもちろんですけど、後輩バンドにも影響を受ける。と同時に、どんな音楽にも興味を持てるんですよね。今年いちばん度肝を抜かれたのはシュリスペイロフの『0.7』というアルバムでした。洋楽ではヤックが良かったかな」。



一生賭けてやっている

「パソコンを持ってないからMP3のダウンロードとかは自分じゃできないんですよ(笑)」と苦笑いするが、例えアマチュア・バンドのCD-Rでも、もらったり送られてきた音源にはすべて耳を通すというから驚く。常にリスナーとして新しいものに反応するという彼の好奇心旺盛な横顔こそが、the pillowsをいつまでもセンスのいい高校生みたいなバンドにしているのは間違いないだろう。決して新しい音楽要素を次々と投入するタイプではない。ジャズやボサノヴァからの影響を滲ませていた時代もあったが、吉田仁(Salon Music)がプロデュースするようになった90年代後半以降は、基本的にはラフでオルタナティヴなローファイ風ギター・ロックに定着している。現在は吉田の手を離れてセルフ・プロデュースで制作しているが、ニュー・アルバム『トライアル』も〈永遠の高校生バンド〉と言うに相応しい一枚だ。

「the pillowsって超身軽なバンドだと思うんですよ。これといった音楽性を決めてるわけでもないしこだわっているわけでもない。いいなとも思える音楽に実は結構影響されがちなんで、そういう意味では音楽的にブレまくってるはずなんです(笑)。でもそうは聴こえないのなら、やっぱり〈センスのいい高校生〉というテーマだけがずっと揺るぎないってことじゃないかな」。

山中のソロ作などを経て発表されるこの新作も、極端に目新しい武器が導入されたものではない。夢中で突っ走ってきた、いつまでもロックに魅せられてしまうちょっと不器用でちょっと不格好な自分たち自身にフォーカスを当てたロックンロール讃歌的なアルバムだ。ラスト“Ready Steady Go!”などは、そのタイトルからしてもモッズ好きを標榜する彼にピッタリだし、〈僕はロックを見つけた〉と叫ぶ一節など自分たちを叱咤激励しているかのよう。まるで23年間疾走してきたthe pillowsのテーマ曲と言ってもいいようなナンバーだ。

「いや、実は今回は大変だったんですよ。ここ数年で、わりと何でも手に入ってしまったというか、なりたかった自分になることができてしまったんですよ。まあ、ハングリーな渇望がなくなったんですね。でも、〈なりたかった自分〉が本当に最終形なのか?と言えば決してそうじゃない。結局、センスのいい高校生であることに戻ってしまうんです。そう気付いた時に、退屈感が前向きに転化していきました。そういう意味では今回、歌詞を書くのも結構煮詰まって大変だったんです。僕、基本は自分好きなんで(笑)、曲の多くが自分ソングなんですけど、今回のアルバムにはもう一度何かに立ち向かうという目線があると思います」。

欲しいものはたいてい手に入れた。けど、やっぱり満足できない自分がいる。そんな自分の在り方を山中は「チャレンジャー体質」と例える。ジャングルの王・ライオンのようなチャンピオンより、獲物に飢えた狼のような挑戦者であることの強みをthe pillowsというバンドは知っているということなのかもしれない。

「だから23年もやってるんですよ。ソロも出してるし、他にもバンドをやってるけど、やっぱりいい曲はthe pillowsでやりたい。そっちが最優先。このバンドは一生賭けてやっているってことなんです」。



▼『トライアル』の先行シングル“エネルギヤ”(avex trax)

▼1月25日にリリースされるUSツアーDVD「WE ARE FRIENDS 〜NAP UTATANE TOUR 2011 SEPTEMBER in USA〜」(avex trax)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年01月18日 00:00

更新: 2012年01月18日 00:00

ソース: bounce 339号(2011年12月25日発行号)

インタヴュー・文/岡村詩野