LONG REVIEW――摩天楼オペラ 『Justice』
自身の正義が鳴り響く、荘厳な音世界
いやはや驚いた! V系シーンには画一的なサウンド志向はなく、各バンドが個々のヴェクトルを持っていることは知っていたが、これほど壮大でドラマティックなバンドがいたとは。摩天楼オペラの音は、一見ネオ・クラシカル~シンフォニック・メタルの形式に則っているが、そこに様式美を見い出すのではなく、荘厳な音の世界で、あくまでも〈生々しい自身の物語〉を歌うことに主眼を置いている。
本作『Justice』では冒頭の表題曲から、ダイナミックなシンセ・ストリングスと声楽隊の合唱、猛然と打ち鳴らされるツーバスとギターの速弾きが炸裂するが、そのインパクトの強いサウンドに乗る、苑の歌声の存在感たるや! ハイトーンとファルセット、シャウトを巧みに使い分けていて、これくらい歌える人がいまのヒットチャートにどれだけいるだろうか? 楽器陣も技巧派揃いなだけでなく、それぞれユニークな音楽的背景(と引き出し)を感じさせる。この5人が一丸となったアンサンブルの新しさが、彼らの独自性だ。
アルバムは、ヘヴィー・ロック調の重々しいギターに乗せて露骨にセクシャルな歌詞をぶちまける“濡らした唇でキスをして”や、ダークなスラッシュ・メタル“落とし穴の底はこんな世界”、ハード・ロッキンなインスト“Just Be Myself”などを畳み掛ける一方で、“21mg”ではストレートなギター・ロックを、“IMPERIAL RIOT”ではオートチューンを聴かせ、“Mermaid”ではトランシーなシンセも採り入れたりと、新要素の導入にも積極的だ。
そして終盤では、歌謡曲とミュージカルを融合した“ニューシネマパラダイス”や、願いと祈りを込めたバラード“絆―full chorus―”で〈前向きさ〉や〈希望〉を感じさせる。ダークで退廃的な前作には希薄だった、それらが彼らの〈Justice〉なのだろう。トリックスター的な振る舞いで、過激なヴィジュアルや世界観を展開するも、その根底には真摯なメッセージが込められているという構造からマリリン・マンソン、もしくはレディー・ガガを連想するのも決して筋違いではないはずだ。