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インタビュー

0.8秒と衝撃。 『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』



0.8秒と衝撃。



[ interview ]

前作『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』で獲得した異形のビート・ミュージックで各地のライヴハウスをトランス盆踊り状態に陥れている男女デュオ、0.8秒と衝撃。が、約1年ぶりとなる新作を完成させた。

今回届けられたEP『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』は、歌も含めたリズム・アンサンブルをより強化させつつ、デビュー作『Zoo&LENNON』で聴かせたアコースティックなバラードや、ヨーロピアンな陰りを纏ったシンセ・サウンドも披露。ソングライティングを担当する塔山忠臣いわく、「制作の発端はキング・クリムゾンの『Discipline』とのことだが……本作に影響を与えた作品とそこからの実験の過程について、二人に訊いた。



特有のドラム・サウンドを作りたい



――前作のときはブライアン・イーノが制作のキーワードのうちの一つでしたが、新作はそこと地続きなのかな、と思いまして。

塔山忠臣(唄とソングライター)「前回の良いところは保ちつつ、もっと新しいことをやりたいなっていう感じで始めましたね。音作りの面で自分でも良いなって思った要素を土台にして、枝を伸ばしてみるかって」

――その、前作の〈自分でも良いな〉と思ったところとは?

塔山「ビートのボトム感っていうか。前作ではドラムマシーンをいろいろいじくったりしてやってたんで、その良いところと悪いところが自分ではわかるんですね。みんなは音楽として聴くからなんの問題もないんですけど。ドラムで良いなって思ったのは、振り切れてるっていうか。暴力的だけど、ちゃんとやり切れてる感じはあるんですね。ただ、もっと細かい音を出せるやり方があるから、もっとやりたいなって思ったところはそこですね。独特のドラム・サウンドを極力作っていきたいなと思ってるんで。生ドラの良さもありますけど、前作では生ドラでは出せない音を作れたんじゃないかなって。その要素を今回も持ち込みたいなと思いましたね」

――本当に、リズムへの執拗なこだわりが感じられるといいますか……。

塔山「ストーカー的ですよね(一同笑)。今回執拗にやってみておもしろいなと思ったのは、その……ライヴのためにトラックを分解してドラムのデータだけを取り出そうとすると、音がなくなっていくなかで、〈俺、おもしろいアレンジやってんだな〉っていうのがわかってくるんですよ。そうなってくると、逆に〈これ、要らねえんじゃないかな〉って思う音もいっぱい出てくるんですよね(笑)。それはいい意味で、なんですけど。〈うわ、この途中の段階がすごい良い!〉ってね。カレーとか作ってても、バターで玉ねぎ炒めてるときがいちばんいい匂いするじゃないですか」

――ああ~、はい。

塔山「そんな感じで、トラックを分解してると〈これ、すっげえいいなー〉って思うときがあるんですよ。だけど、俺がその時点で出した答えを俺は信じてるし、それをみんなに聴かせることで、俺が成長すればいいわけじゃないですか。俺も完璧な人間ではないわけですから。だから、その執拗にやってる感じは、ここまできた道にも、これからにも繋がっていくんじゃないかなと思って。ホントにストーカーですよ」



それぞれの意識の変化



――では、今作の制作はいつ頃始まったんですか?

塔山「去年の11月とかからちょっとずつやってました。途中、レックが終わってミックスにいこうかなーっていうときにエンジニアが他のアーティストとバッティングしちゃって、それでちょっと止まっちゃったんですけど、その間にまた音を詰められたんで良かったんですよね。そのアーティストのせいですよ、たぶん。音がめっちゃいっぱいになったのは」

――まあ、1曲目の“NO WAVE≒斜陽””から音数がエラいことになってますからね。

塔山「そうですねえ。トラック数は途轍もなかったと思うんですよ。エンジニアがパソコンでデータを開くので、もう半日ぐらいかかっちゃいますからね。でもね、なんかの本に載ってたマーズ・ヴォルタのインタヴューでは、〈エンジニアが逃げ出すぐらいやって本物だ!〉って。マーズ・ヴォルタは実際、サードの『The Bedlam In Goliath』のときにデータ持って逃げられたらしいですからね。エンジニアが〈ここは音が多いからこうしようよ〉みたいな感じに言ったら、アフロ組が〈そこは譲れない〉って。どっちも〈譲れない〉って状態になったら、〈言ったようにやってくんないんだったら、やんない!〉ってエンジニアがデータ持って逃げたって。子供か? オマエは、って(笑)。俺もそれぐらい、エンジニアを追い込んでいこうと」

――今後のテーマとして(笑)。

塔山「そうです、そうです。でもね、お互いそれぐらいギリギリでやるから最終的にすごい仲良くなるんですよ。どんどん信頼関係ができてきてるんですよね。チームですね、ホントに」

――ライヴのメンバーもそうですしね。

塔山「そうですね。ライヴもみんな、自覚が出てきて良くなってますから。いまいっしょにいるメンバーっていうのは、なんの決めごともないなかでヨーイドンでやるようなジャムとかが結構好きなんですね。そのなかに室伏ユータ・テレキャスターっていうギタリストがいるんですけども、最初は個別で呑まなくちゃいけないぐらい、迷ってたんですよ。音楽性がどうっていうよりも、同期で縛られてるっていう感覚が、ずっと彼のなかにあったみたいで。自分がそれまでやってきたこととまた違うことをやることに、心のなかで反発があったと思うんですよね。でも最近、なんでそうなったのかわからないですけど、すごく良くて」

――プレイがグッと前に出てきてる感じはありますね。

塔山「練習でも、〈いま、客いないよ? 〉っていうぐらいやるんですよ。ある種のスケールのなかから抜け出せなかったところを、いまは身体全体で表してくるんですよね。そういう部分でも俺、最近ライヴが変わったなあと思ってて。迷いがないんですよね。これは同期だから、ジャムだからっていうんじゃなくて、全部ロックとして捉えて、自分のエネルギーをぶつけてるだけですから。それが音に出てるんだろうなって」

――それはライヴだけではなく、音源のほうにもフィードバックされてます?

塔山「音源自体は俺が全部やってるじゃないですか。それでレコーディングのためにメンバーとのセッションができないときとかあるんですけど、そういうとき、逆に〈信じてますから、待ってますから〉って。〈いちばんのファンだから、楽しみにしてる〉って言ってくれるんですよ。それがすごく嬉しくて。そういうふうに完全分業制になってるからこそ、ライヴと音源でお互い高め合えるようになってるんですよね」

――先日の4月のPOLYSICSとの2マンで久しぶりにライヴを拝見したんですけど、J.M.さんもずいぶん……。

J.M.(唄とモデル)「変わりました?」

――変わってました。お客さんに向けての開かれ方がまったく違って。あとは、もう捨てるものは何もないみたいな感じが……(笑)。

J.M.「え~、ホント!? 嬉しい‼ それってどういう部分ですか?」

――例えば、女の子だからってこれはNGとか、J.M.さんのなかのパフォーマンスに対する制限が取り払われたような気がしました。

J.M.「ですよね(笑)!?」

塔山「素晴らしい」

J.M.「私ね、確かに恥ずかしかったんですよ。昔はうまく歌えなかったから、〈こんな醜態さらしてよう!〉とか思ってて……(苦笑)。塔山さんにもガナらなくていいって言われたりしてたんだけど、その……すごく悔しさがあったんですね。女々しさって、音楽を霞ませてしまうようなものがあると思うんです。それが嫌なんですよ」

――このバンドの場合は、そうかもしれませんね。

J.M.「それで、全然できないながら、練習しながらやってきて、ちょっと得意になってきたんですよ。ガナるの(笑)」

――(笑)自分の歌や声で、やれることが増えてきてる?

J.M.「そうですね。『Zoo&LENNON』(2009年の初作)のときはファルセット・コーラスみたいな感じだったんですけど、ライヴでは自分の筋力のないファルセットなんか全然届かないんですよ。だから、初期のライヴでは足引っ張ってたと思ってて……」

塔山「さっきのギタリストの話といっしょなんですよね。観に来てくれる人とか聴いてくれる人とかがいるわけじゃないですか。そこに対して小難しいことを考えずぶつかっていく、興奮感が出てきてますよね。振り切れてます。理屈よりも行動になってきてますね」

――その、ライヴにおけるバンドの成長の合間に今回の曲が出来たわけですけれども、最初のお話ですと、前作でのリズムにおける発見を今作でさらに広げていこうっていう意識があったと?

塔山「ファーストが結構アコースティックっぽくて、セカンド(2011年作『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』)が結構ビートもんっぽかったんで、その二つの音、っていうよりも世界観の良さを出したいなと思って。それは別に悪いことじゃないと思うんですけど、例えば〈ファーストが好きだったけど、セカンドはこんなに激しくなったんだ……〉みたいに、離れた人もいると思うんですよ。そんなことはこっちもわかってやってますし、仕方のないことなんだけど、ファーストのときにすごく応援してくれてた人とかに今回の音源を聴かせたら、ビートで離れかけたんだけど、一周して戻ってくる感じがあるんですよね。それが進化としては正しいんじゃないかと思って。いままでの人たちをすべて連れて行けるような部分と、自分で新しいことやりたいって思ってる部分の両方をやれたことがいちばん嬉しいです」


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年06月06日 18:00

更新: 2012年06月06日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓

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