こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

INTERVIEW(2)——ロバート・フリップに見るパンク精神



ロバート・フリップに見るパンク精神



――その〈やりたいこと〉の推移がわかりやすいように、今回は曲の完成順にお話を伺いたいんですけど、最初に出来た曲はなんですか?

塔山「3曲目ですね。“ボンゴとタブラ、駆け抜けるリズム。”なんですけど、俺、今日影響を受けたCDを持ってきたんですよね」

――おお~、ありがとうございます。私も〈ブライアン・イーノからこんな感じで広がっていったかな?〉っていう相関図を書いてきたんですよ。

塔山「すごいな。(手書きの相関図を見ながら)当時のシアトルのバンドの繋がりみたいになってますね(笑)……なるほど! 当たってますよ。モロですよ。今日持ってきたのはですね、ベタなところからいきましょう。“NO WAVE≒斜陽””は『No New York』(78年)ですよね。“ラザニア”は、作ってたときにいちばん聴いてたアルバムがこれ。影響を受けたっていうよりは、聴いてたんです。その頃」

――アート・オブ・ノイズの『Daft』(86年のコンピ盤)なんですね。

塔山「そうですね。“ラザニア”のときは聴いてましたね。あと、いちばん最初に出来た“ボンゴとタブラ、駆け抜けるリズム。”のとき、今回の作品の出だしとしては、キング・クリムゾンの『Discipline』(81年)とカンの『Ege Bamyasi』(72年)の2枚です。で、ディス・ヒートの『Deceit』(81年)が4曲目の“あなたがここにいてほしい”。キンクスの『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』(68年)が最後のバラード“大泉学園北口の僕と松本0時”ですね」

――前作のときはデヴィッド・ボウイ『Low』(77年)の話が出てきていて、同じ年に『Heroes』もありますから、ここからだろうなっていう予想だったんですよね。

塔山「そうですね。前回は『Low』を聴いてて『Heroes』もちょっと聴いてたんですけど、でも今回で俺、ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)がすごく好きになったんで。『Heroes』にはロバート・フリップが参加してるんですよ。だから、そういう意味では結構聴きましたよね」

――どうして急にロバート・フリップが大好きになったんですか?

塔山「僕、もともとパンクを聴いてたんで、ピンク・フロイドとかのプログレ系はどっちかっていうと敵だったんですよ。だったんですけど、例えばニルヴァーナとかでも、逆にツェッペリンとか聴いてたじゃないですか。パンク好きなんだけど、逆の理論で。それで、俺も自分が絶対聴かないようなのを聴いてみようかなと思っていろいろ聴きはじめたんですけど、ピンク・フロイドとかよりは、ちょっとこっちのほうが直情的な感じがしたんですよね。ピンク・フロイドはもうちょっとアートっぽい音なんですけど、クリムゾンはテクニックがあるから感性はアートっぽくても、音は結構ゴリゴリだったり、最終的にはメタルっぽくなってて」

――はい。

塔山「それで、たまたま拾った本が……拾ったって言ったら俺、ホントにどんな生活してるんだって感じですけど、キング・クリムゾンのこのアルバムを特集してたんですね。ここに辿り着くまでの歴史を書いてるわけですよ。このアルバムって、みんなが思ってる顔ジャケのキング・クリムゾンが解散して、再結成してから一発目のやつなんですよね。たぶん、ホントにうるさいキング・クリムゾン・ファンからしたら、〈これはキング・クリムゾンじゃないよ〉って言うレヴェルのものだと思うんですよ。でも自分的には、そういうものからがいちばん拾えるっていうか。今回はPILの『This Is What You Want... This Is What You Get』(84年)も結構聴いたんですけど、PILも、みんなが〈良い〉って言うのはだいたい3枚目(81年作『(The) Flowers of Romance』)までじゃないですか。だけど、その4枚目がすごく格好良く思えて。それを聴いたのは、撃鉄と対バンしたときにベースのリズムがすごく好きだなと思ったからで。この感じ、俺どっかで聴いたなと思ったら、PILの“This Is Not A Love Song”だったんですよね。ワンコードでブッ、ブッてくる感じが格好良くて、それで久しぶりに聴いたら、そのときハマってたバトルスとおんなじ感じなんですよ」

――ほう。

塔山「内容聴いたらわかるんですけど、バトルスがやってることを、PILはあんな昔にやってたんだなと思って。でね、聴いてる人のせいだけじゃなくて、時代の流れとかでたまたま人がこぼしていっているようなものあるじゃないですか。『Discipline』も、キング・クリムゾンのなかではそっちに入るアルバムなんですよ。それで興味を示して調べてみたら、当時新しいものだったパンクにいちばん敵視されてたシーンの大御所が解散して、次に何やんのかなと思ったら、パンクのやつらよりも実験的なことをやってるわけですよ。楽器もコヤブボードっていうフレットが太くて両手で弾いたりするやつとか、ベースもスティックっていうのを使ってるんですけど、それが普通のベースの低音よりもっと低音を拾うんですよ。で、もっと高音も出せるんです。ドラムも電子ドラムを入れてみたりとかで、初期のキング・クリムゾンの頃のロバート・フリップだったら絶対考えられない感じなんですよね」

――印象はガラッと変わってますよね。

塔山「そういうところが興味深かったし、さっきの話に戻っちゃいますけど、うちのジャム好きのギタリストが俺たちの、新しいことをやろうって言ってるのに乗っかってくれてるのといっしょで、ロバート・フリップは誰とやっても続かなかったのに、ここから組んだエイドリアン・ブリューといちばん長く続いてるんですね。ブリューはめちゃくちゃフリーな、どっちかっていうとノイズ流すだけみたいな、理論知ってんのかな?ぐらいのSEみたいなギターだし……だから、〈音楽はこうだから〉っていう情報じゃなくて、ふわっとした可能性をいっぱい秘めた感じが興味深くて聴きはじめた。それがすごく良くて」

――音的には確かにバトルスと繋がるところもありますよね。では今回は、イーノ繋がりで『No New York』に行って、そして発端は……。

塔山「クリムゾンっていうか、『Discipline』です」



クリムゾンとカンの構成力



――では『Discipline』に刺激を受けて、どういう作業を?

塔山「構成で言うと、俺のなかでは3曲目がいちばん成功してると思うんですね。静かに聴かせるところもあるし、リズムとかギターとか、歌がすごくくるところもあって……ホントにみんなの掛け合いっていうか、一人で作ってるんだけど、ライヴ感があるんですよ。『Discipline』もすごくそれがあって、もう決まりがないわけですよね。パンクから批判されてたような人たちがやってるこれっも、気持ち的にはパンクなんですよ。当時のニューウェイヴの人たちよりも自由なことやってますから。そういう意味で、この『Discipline』の構成力みたいなところに刺激を受けましたね。何やってもいいんだ、みたいなところで」

――それで、“ボンゴとタブラ、駆け抜けるリズム。”が出来上がったと。

塔山「そうです。あと、今日は持ってきてないですけど、カサビアンのサード(2009年作『West Ryder Pauper Lunatic Asylum』)も好きですごい聴いてたんですよ。あれが絶妙なんですよね。ビートもあるんだけど、ちゃんと歌もあって。コード進行だけでアコギでもできるぐらいのものがあって、それってすごい素敵だなーと。ただ単に〈どうや!〉ってやってるようなビート・ミュージックじゃないんですよ。ちゃんと声もあるし、言葉もある。でね、その頃のインタヴューを読んだら、結構『Ege Bamyasi』を聴いてたらしいんですよ。それで自分も探して聴いたら、やっぱ格好良いな~と思って。ダモ鈴木ですか? いい声してるけど、YouTubeとかで映像観たら、ホームレスみたいな人が歌ってるじゃないですか。それがすごい格好良いんですよ。俺、この前に『Tago Mago』(71年)は聴いてたんですけど、『Tago Mago』はプライマル・スクリームが……。

――ああ、ドラムだけサンプリングしてたりしてますね。“Kowalski”でしたっけ?

塔山「そうですね。で、ドキュメンタリーを観たときに、『Tago Mago』と『Metal Box』(PILの79年作)は影響を受けた、って言ってたから聴いてみたんですけど、どっちかって言うと『Ege Bamyasi』のほうが好きでしたね。もっとしっかり構築できてる感じが。“ボンゴとタブラ、駆け抜けるリズム。”も結構パキン、パキンとわかりやすく場面展開をつけてますから、今後に繋がるなーと思って。これ、絶対ライヴにハマりますよ」


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年06月06日 18:00

更新: 2012年06月06日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓