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インタビュー

LONG REVIEW――0.8秒と衝撃。 『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』



0.8秒と衝撃。_J

本文からもおわかりのとおり、塔山忠臣の言う〈パンク〉とはニューウェイヴともノーウェイヴともほぼ同等のもので、それぞれの起源にある〈革新のムーヴメント〉という意味合いをまさしく踏襲するものだ。彼が敬愛するジョン・ライドンの「ロックは死んだ」という発言も、シーンに登場する際にワイヤーが掲げた「ロックでなければなんでもいい」というコンセプトも、翻せばロックンロールに対する過激な野心と探究心/実験精神の発露。そして、先人のそれと共通する煮えたぎるようなエネルギーを爆発的なビートとして放射したものが、0.8秒と衝撃。の音楽である。

2011年作『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』で塔山が提示したのは、歌メロを含む全パートのリズム・アンサンブルを突き詰めたビート・ミュージックだった。それがDAFなどのEBMに着想を得たドラムの質感と、70年代の欧州の翳りを孕んだニューウェイヴィーなシンセ・サウンドと相まって異形のダンス・ミュージックを形成。そんな彼らから約1年ぶりに到着した5曲入りのEP『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』は、前作で獲得した独自性の最新ヴァージョンと言えそうだ。

その象徴となるのは、やはりオープニングの“NO WAVE≒斜陽””だろう。ギターとベースのずっしりしたリフがリードする冒頭から、ヘルメットばりのギター・オーケストラが極太の唸りを上げるサビへ——その合間で主メロも副メロも生声も加工声も入り乱れ、散っては収束する歌が切ない昂揚感を呼び起こす。また、今作の起点となった3曲目の“ボンゴとタブラ、駆け抜けるリズム。”は、全速力で突進する装甲車のように圧倒的な攻撃性とスピード感を備えた逸曲。要所に敷かれたボンゴとタブラの土着的なリズムを不適に切り刻む鋼鉄のリフ、疾走しながらも刻々と変化するビート、挑発的に掛け合う塔山とJ.M.のツイン・ヴォーカルがマッシヴなグルーヴを生み出している。その勢いのままに続く“あなたがここにいてほしい”は、歌以外の音が束になってリフレインするエクストリームなビートと弾丸のように飛び交う男女の2声が聴き手の意識を翻弄。凶悪なサウンドに有無を言わさず引きずり込んでいく。

その一方で、塔山が「“NO WAVE≒斜陽””と対」だと語る打ち込み主体の“ラザニア”は、変則的なブレイクビーツを敷いた仄暗いダンス・ナンバー。シンセやリズムに施された音色に上述の塔山らしさを素直に表出させつつ、メインを張るJ.M.のヴォーカルに対して塔山が繊細なファルセット(本人いわく、「ウィーン少年合唱団級の天使の歌声」)をかぶせるというアクロバティックな演出もあり、どこかモンドな空気も纏っているような気が。そしてラストは、初作『Zoo&LENNON』でテーマとしていたアコースティック・ギターを中心に据えたセンシティヴなバラード“大泉学園北口の僕と松本0時”。剥き出しの感情を丁寧に紡ぐ塔山の歌とクライマックスを震える声で引き継ぐJ.M.の歌唱が、心(記憶)の奥底に突き刺さる。

〈いま、やりたいこと〉に着手した結果、テーマが異なる過去の2作品の美点が一枚にまとまった本作。よって、ある意味でカラーが両極とも言える楽曲が並んでいるが、全編に共通しているのは、J.M.の声を前作以上に大きくフィーチャーしている点だ。千変万化の彼女の声が時には激烈なサウンドにポップネスを与え、時にはぬくもり溢れるミドル・チューンにさらなる慈しみを添え、そして、歌の核にあるたった一つの感情を浮き上がらせる触媒としても機能しているように思う。

筆者個人としては、今回の5曲の根底に流れている精神性は、前作とほぼ同じものなのではないかと考えている。それは自分自身——アイデンティティーとの対峙である。嵐のように吹き荒れる混沌の音世界に晒されることで、体温が伝わるような慈愛深い歌に包み込まれることで、聴き手はいま、ここにいることを改めて確認することができる。狂乱のステージ上で、沸騰するフロアで、あるいは銀盤に刻まれた音に一人耳を傾ける部屋のなかで。〈錯乱〉というトランス状態をもたらす楽曲群は、聴き手自身に——そして恐らくはソングライター自身にも、演者自身にも、〈僕らの存在〉を見つけ出させてくれることだろう。


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年06月06日 18:00

更新: 2012年06月06日 18:00

文/土田真弓

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