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インタビュー

INTERVIEW(4)——イッちゃってるゴスペル



イッちゃってるゴスペル



――そして次は、“あなたがここにいてほしい”。

塔山「それはもう、振り切りの境地ですよね。ロボ声のゴスペルというか、オーケストラですよ。あとはそこに対して、ベース、ギター、ドラムがいっしょになって、反復のリフをずっと呪いのように繰り返して、分かれて、また呪いになってサビにいくっていう、そういう振り切れ感を出したかったんですね。いい意味で、下品の極みですよ。いい意味で、って言ったらなんでもいい意味になりますけどね。

――(笑)呪いすらも。

塔山「なんかね、そういうのをやったほうがいいなと思いました。エンジニアも作った本人じゃないから遠慮がちょっと入りそうになるんですけど、いやいや〈もっと〉だと。もっとイキ切りましょうと。全体が活きなくていいから、ロボ声をもっと上げてくれ、みたいな感じでやりましたからね。だからテーマはロボ声と、バンドのアンサンブルのズシズシした感じです。ドラムのね、いい意味での下品感。イガイガしてるじゃないですか。トン・タン・トントン・タンみたいなドラムじゃなくて、ドカドカドカドン!みたいな。それをやりたかったですね。バトルスとかでもそうですけど、すごいドラム・ビートに対していきなりなんだ?このロボ声は、みたいなのがあるじゃないですか。あと自分のなかでは、独特の……この頃はディス・ヒートをすごく聴いてたんですけど、独特の無機質な感じを入れたくて。結構ね、これは構成も繰り返しのわりに、俺たちにしては長い曲で、4分半ぐらいあるんですよ。いままでだったらあれを3分ぐらいにしてるんですけど、その無機質に続く感じをね、ポップに寄せるんじゃなくて、自分のやりたい構成でやり切る感を出したくて」

――それでディス・ヒート?

塔山「そうですね。ディス・ヒートなんかは、モロにそうなんですよね。間違いなく自分たちのやりたいことしかやってないわけですよ。もうちょっとこうやったら売れんちゃうのん?みたいなところに全然行ってなくて。その世界観をこの曲でやり切りたくて。この4分半のドカドカしたアンサンブルに、ロボ声のちょっとイッちゃってるゴスペルみたいなのが続くわけじゃないですか。しかも、終わったかなと思ったら押し寄せる波みたいにまた戻ってくる。4曲目だからこそ、それをやり切りたかったですよね」



0.



変えるきかっけは近くにある



――そこからラストは、ものすごい落差でバラードの“大泉学園北口の僕と松本0時”ですね。

塔山「今回は『The Kinks Are the Village Green Preservation Society』がバラードのテーマだったんですけど、あんまりビッグ・サウンドにするんじゃなくて……例えばストリングスとかピアノを入れたりとか、いろいろできるわけじゃないですか。そうじゃなくて、最初はこうやってコード取って、弾き語りで書いたんだろうなっていう感じを残しつつ、あったかい感じ。あと、詞のテーマも曲自体も極力シンプルに。〈The Kinks Are~〉ってね、当時ホントに売れなかったらしいんですよ。激しいのからいきなりここに行ってて。でも研究本みたいなのを読むと、この当時に、この世界観に着目してた若者っていなかったらしいんですよね。イギリスの昔からの生活の仕方とか、アイデンティティーみたいな、しかも田舎のほうの木こりのおっちゃんとかの生活が懇々と曲として鳴ってて、それこそ、お爺さんが切り株に座って、子供たちに昔話を教えるみたいなアルバムなんですよ。そういう素朴さを入れたかったんですよね。自分のイメージとしては、友達とか、好きな人たちとキャンプファイヤーしながらギター出して歌った、みたいな感じの曲です。だから、エンジニアの人とか、この人(J.M.)とかが、〈良い〉って言ってくれたのが嬉しかったですね」

――言葉も温かいというか、どこかノスタルジックな雰囲気がありますね。

塔山「アレンジを派手にしすぎないというのといっしょで、詞もみんなが思ったり、どこにでも落ちてるような言葉を集めてきてますね。自分が何かになりたい、何かを変えたいって思ったら、まずは自分の身近な人を大事にすることとかから始めるぐらい、変えるきっかけは結構近くにあると思うんです。それをこのキンクスのアルバムから僕は感じ取ったんで、僕もバラードで、そういう曲を書きたいなと思ったんですね」

――この曲を私が聴いて思い出したのは、前回のインタヴューのいちばん最後で〈どうして塔山忠臣という名前で音楽をやってるのか?〉という質問に塔山さんが答えてくれたときの言葉で。今回のEPは、4曲目まではとにかく前に前にフルスピードで突き進んでるんですけれども、この最後の曲で自分の足元を見つめ直している感じがしたんですね。

塔山「はい。そうですね」

――〈上り調子のときって周りが見えなくなるから、そこで自分の原点を思い出すためにこの名前でやってる〉っておっしゃってて。その話が浮かんできたんです。

塔山「このキンクスのアルバムもそこが好きだったんですけど、キンクスってそれまで暴れ回ってたわけじゃないですか。それで、いきなり自分たちのアイデンティティーを振り返ろうみたいなことをやってる。バラードってトラッドなものだと思うから、振り切って書けるんなら、自分の気持ちを表現したいじゃないですか。だから、土田さんが言われたみたいな感じではあると思うんです。ガーッとやっていても、でも何も変わらなくて大事にしてるものがある、っていうところを表現したかったんですよね。人間って、派手なことやってる人でも、結構素朴じゃないですか。比べるのもおかしいですけど、芸能人とかも、普段は地味って言われてたりするでしょ? そういうのといっしょで、自分がいろいろやりたいからこそ、挑戦したいからこそ、さっきの身近な人の話じゃないですけど、自分のいまの状況を大事にしながらいろいろやりたいっていう。だから、核ですよね。自分の足元をちゃんと見る感じのバラードとか世界観にしたかったですね。だからこそ最後はこの曲で締め括りたかったですし」

J.M.「塔山さんって、アコギを持ってやっと完成される感じがあるんです。塔山さんの根底を表現するときってアコースティック・ギターが必要不可欠だから、持つとスッと落ち着くっていうか、収まる感じがする。彼の伝えたいものが、彼から溢れてるものが、アコギを持つことによってしっくりくる」

――なんだかんだ言って、塔山さんは素朴な人だと思うので。詞も、読んでいるこちらとしては襟を正したくなるといいますか。誰かに手を差し伸べて助けてあげるというものではなく、聴き手に自分で立とうと思わせるもので。

J.M.「ああ、そうですね」

塔山「カンフル剤ですよね。『Metal Box』を作ってるときにジョン・ライドンがインタヴューで言ってたんですけど、自分は嫌われてもいいから刺激したい、みたいな。それもメンタル的に。そういうことは自分でもやりたいですよね。それが先人への恩返しにもなるし、自分がこれから進むためにもプラスになる」

――EPのリリース後には、そうした刺激が期待される初のワンマンと東名阪ツアーが控えてますが、今回の曲はこれまで以上に演奏が大変そうですね。

塔山「作ってるときから、ライヴのことがよぎってたわけですよ。でもライヴを考えて音源をセーブするんだったらライヴのメンバーにも悪いなと思って。だから、たぶん大変な部分も出てくると思うんですけど、ライヴの準備をしはじめたら楽しいほうが勝っちゃってて。こんな感じの曲はたぶん聴いたことないだろうから、お客さんをビックリさせられるなっていうのがありますね」

――サプライズ、楽しみにしてます。

塔山「俺らも本当に楽しみで。合わないと思われてたものが合ったときの格好良さったらないですからね。任せてください!」




カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年06月06日 18:00

更新: 2012年06月06日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓