インタビュー

LONG REVIEW――Plastic Tree “くちづけ”



叙情的で、哀感豊かな恋の歌



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現在のPlastic Treeが〈ヴィジュアル系〉に数えられているのかは、よく知らない。僕の知っているプラトゥリは70年代後半のUKロック、とりわけポスト・パンクやゴシック・ロックの流れから80年代後半のシューゲイザーに至る、オルタナティヴな音楽をルーツとするバンドで、97年のメジャー・デビュー当初から、ハード・ロックやポップ・パンクの要素の強いバンドが多いように思えるV系シーンとは一線を画すクールなバンドとして、常に気になる存在だった。その後は幾度かのメンバー・チェンジを経ていて音楽性にも変化が見られるが、いつだったか有村竜太朗が語ってくれた「割れてる轟音に歌フワフワ」で、「自分の琴線に触れるもの」という基本形に変わりはない。

この31枚目のシングル“くちづけ”もそうで、深いリヴァーヴとディストーションに分けられた2本のギターの叙情的な絡み、ポツンポツンと滴り落ちる雨音のような瑞々しいピアノの響き、ダンス・ビートを内側に含んで強い推進力を発揮するドラム、儚くも美しいメロディー、そして、有村のフワフワした歌いぶりの裏側に潜む甘い毒――。〈愛情なんて哀情なんです〉というキラー・フレーズが飛び出す歌詞も含め、どこか昭和の歌謡曲に近いと言っていいほどに叙情的で哀感豊かな恋の歌となっていて、この異形のバンドがデビューから15年経っても新鮮な魅力を放ち続けていることがよくわかる。

通常盤のAタイプとBタイプに分散で収録された初期の代表曲“トランスオレンジ”“クローゼットチャイルド”の再録音も、当然演奏は上手くなってはいるが、むしろ当時からプラトゥリの世界が確立されていたことを示す証明となる出来だ。15周年おめでとう。


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掲載: 2012年06月20日 18:00

更新: 2012年06月20日 18:00

文/宮本英夫