LONG REVIEWーーハンバート ハンバート×COOL WISE MAN『ハンバート・ワイズマン!』
『ハンバート・ワイズマン!』でお散歩
ある晴れた日の午後、土手へ散歩に出かけることにした。めったに履かない真っ白なスニーカーを履き、古びた愛用自転車にまたがる。BGMは出掛ける前から決めていた。
聴きたい音楽があった。ハンバート ハンバート×COOL WISE MANの『ハンバート・ワイズマン!』。初夏の清々しい風に目を細めながら、ひたすら自転車を走らす。土手が見えてきた。
自転車を置いて、ゆっくり歩き出す。てくてくてく。穏やかな川の流れと並行するようにゆったりとしたルーツ・ロック・レゲエのリズムがヘッドホンから流れ出す。“おなじ話”。〈どこにいるの?/君のそばにいるよ〉〈何をしているの?/君のこと見てるよ〉——甘酸っぱい会話を、佐野遊穂と佐藤良成が優しい歌声で紡ぎ合う。胸キュン。平凡すぎる幸せに涙がこぼれそうになり、たまらず走り出す。目の前には、どこまでも真っ直ぐ続く道。新緑が眩しい。いまなら何でもできそうな気がする。
そんな心のウキウキを陽気なスカ・チューン“23時59分”が盛り上げてくれる。周りを見渡すと、傍らにあじさいを眺める老人、遠くに川で水遊びをする少年。〈我々は宇宙から来て/我々は宇宙に還る〉——空を仰いで、人の一生なんかも考えてみる。
“狼煙”のルーディーな雰囲気に酔う。“二人の記憶”の切ない思い出に心震わす。“ラストダンスは私に”が美しすぎて繰り返し何度も聴く。気がつくと日が暮れていた。遠くの山の向こうに真っ赤な夕陽が見えた。〈貴方に夢中なの/いつか二人で/誰も来ない処へ/旅に出るのよ〉——佐野遊穂の儚げな歌声が耳元を悲しく彩る。ヘッドホンを取り、家路を急いだ。自転車にまたがり、土手を振り返ってみる。〈胸に抱かれて踊るラストダンス/忘れないで〉——最後に聴いたフレーズが、幻想的なマジックアワーの空にいつまでも木霊していた。
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