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インタビュー

日下紗矢子

軽やかに舞い踊る日下紗矢子の《シャコンヌ》

ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団と、今年4月以降は読売日本交響楽団のコンサートマスターを兼ねる日下紗矢子。日本コロムビアから出たソロ・デビュー盤『リターン・トゥ・バッハ』冒頭、《シャコンヌ》(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番の第5楽章)を聴いた瞬間の驚きを、どう表現すれば良いか? 竹刀の入魂の一振りのように切り込む弾き手が多いなか、日下はふわりと舞い降り、軽やかに踊りながら、J・S・バッハの多彩な音型やリズムを優しく、余すところなく語りかける。日下はブックレットに一文を寄せ、「ドイツに渡り、始めに学んだのが音程の取り方でした。いかに和声に基づいた音程をとるか。次第に音程でも音楽を表現できることの楽しさを感じるようになる過程にはいつも、バッハの音楽があった」と、打ち明ける。

ドイツでの師はライナー・クスマウル。室内楽の名プロフェッサーとして名声を確立した後、クラウディオ・アバドに請われベルリン・フィルのコンサートマスターを期間限定で務め、モダン(現代の)楽器とピリオド(作曲当時の)奏法の融合を実現した人物である。日下も 「モダン楽器でバロック音楽を演奏する限界」に悩んだ時期があったようだ。現在は「自分が理解し、表現したいと望む音楽の本質は、どんな楽器で弾いても変わるものではない」と思い、バッハへの好奇心、自由な冒険を続けている。

続く《ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ホ短調》はオリヴァー・トリエンデルのピアノ、《ヴァイオリン協奏曲 ホ長調》は2009年に日下をリーダーとする指揮者なしのアンサンブルとして公式に発足したベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラと、あえてモダン楽器と共演。《シャコンヌ》では「踊りのステップを感じきり」、ソナタは「即興的な和声が続く第2楽章をドキドキしながら」、協奏曲では「弾いていて、とにかく楽しい」といい、「今、自分が最も興味を持つバッハの世界」を縦横無尽に駆ける。

室内オーケストラとの演奏会では《ブランデンブルク協奏曲》もしばしば演奏する。「どの音を長くして、どれを短くするのか、どの楽器の頭拍が前面に出るのか……。リーダーとして設計図をあれこれ描いても、本番では全く違う動きが出てきたりして、とても大変」と漏らすが、表情はどこまでも楽しそう。まだ東京芸術大学在学中の12年前、偶然に出会ったころの引っ込み思案な感じは消えうせた。ともにベルリンを本拠とする樫本大進、山田和樹と全く同じ1979年生まれ。いまや充実の時である。

写真©Kiyoaki Sasahara

LIVE  INFORMATION
『日下紗矢子(vn) & オズガー・アイディン(P)デュオ・リサイタル 2013日本ツアー』
3/10(日)北海道・北広島市芸術文化ホール
3/14(水)武蔵野市民文化会館(小)
3/16(土) 伊那市生涯学習センター

『日下紗矢子CDリリース記念リサイタル』
3/11(月)浜離宮朝日ホール

『ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ 2013初来日ツアー公演』
7/1(月)武蔵野市民文化会館
7/4(木)高松・アルファあなぶきホール
7/5(金)西脇市立音楽ホール  アピカホール
7/6(土)豊田市コンサートホール
7/7(日)フィリアホール

掲載: 2013年03月04日 17:47

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)