マルティノン&シカゴ響~コンプリート・レコーディングズ(10枚組)
フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910-1976)が、1964年から1968年にかけてシカゴ交響楽団とRCAに残した全録音をCD10枚に集大成したボックスセットが登場します。リヨン生まれのマルティノンは、アントワープ生まれのアンドレ・クリュイタンスと並び、モントゥー、パレー、ミュンシュらの次の世代のフランスの指揮者として最も世界的な成功を収めた指揮者でした。7歳からヴァイオリンを学び、ダンディやルーセルに作曲を師事。ヴァイオリニストとして音楽活動を始め、指揮はミュンシュやデゾルミエールに学び、戦前はパリ音楽院管弦楽団でミュンシュのアシスタントをつとめるかたわらボルドー管を率い、戦後はロンドン・フィルやダブリンのアイルランド放送管、ラムルー管、イスラエル・フィル、デュッセルドルフ響などのポストを歴任。1957年にはボストン響を指揮してアメリカ・デビューを飾って大きな成功を収め、1963年~1968年にはフリッツ・ライナーの後任としてシカゴ交響楽団の音楽監督に就任。さらに1968年からはフランス国立管、ハーグ・レジデンティ管の音楽監督としても活躍しました。フランス物の粋で繊細な演奏が評価されていましたが、レパートリーは国籍・ジャンルを問わず幅広く、フランス人として初めてグスタフ・マーラー・メダルを授与されたオールラウンドな音楽家でもありました。作曲家としては師ルーセルやバルトーク、プロコフィエフらの作品から影響を受け、色彩感あふれる作品を生み出しました。シカゴ響音楽監督時代のマルティノンの音楽作りは「リズムとフレージングの絶妙な感覚で、オーケストラのテクスチャを見事に浮き上がらせる」と絶賛されました。マルティノンは5年間のシカゴ響在任中にRCAにLPにして9枚分の録音を行なっています。「精密さ、強度、広大さとリズミカルな覚醒感の組み合わせは、特にこの作曲家の官能的なサウンド・パレットに合う」と評されたラヴェルの主要オーケストラ曲、ルーセル「バッカスとアリアーヌ」やビゼー「アルルの女」などのフランス音楽に重点が置かれつつも、ジャズの巨匠ベニー・グッドマンとのウェーバーのクラリネット協奏曲、さらにはアメリカの作曲家ピーター・メニンの交響曲第7番のほか、マルタン、ヴァレーズ、ヒンデミット、バルトーク、そして自作の交響曲第4番「至高」に至る20世紀作品が置かず多く取り上げられているのが特徴で、マルティノンが当時シカゴ響で取り組んでいた幅広いレパートリーをうかがい知ることが出来ます。中でもニールセンの交響曲第4番「不滅」と「ヘリオス」序曲を収めたアルバムは、シカゴ響からスリリングで爆発的なエネルギーを引き出し、フィナーレにおけるティンパニの大胆な強調も含め、非常に明快な解釈で作品の真価を知らしめた最初の演奏といえるでしょう。マルティノンのシカゴでの音楽活動は、ライナーの前任者だったラファエル・クーベリックと同様に「シカゴ・トリビューン」の音楽評論家クラウディア・キャシディから激しく批判され、それに嫌気がさしたマルティノンはわずか5シーズンでシカゴ響を離れてしまうことになります。しかし、マルティノンのシカゴ響時代は、彼にとって音楽的には生涯で最も実り多き時代といえるもので、その充実ぶりはこれらRCAの録音に明確に反映されています。シカゴ響自体も、前任者ライナーのもとでむかえた黄金時代の輝きをそのまま踏襲しており、名手のそろった木管・金管、重厚でしかも精密なアンサンブルの弦楽パートなどは健在で、巷にいわれる「ショルティ就任前のシカゴ響は沈滞していた」という通説を覆すにじゅうぶんな説得力を持っています。録音面でも、当時のRCAが誇った「リビング・ステレオ」という見事に完成されたテクノロジーによって収録されており、その輝かしいサウンドは今聴いてもじゅうぶんな鮮度を保っています。今回のボックスのCD1~CD9は、マルティノンとシカゴ交響楽団とのRCAへのLP9枚分の録音が、初出時のカップリングとジャケット・デザインによって復刻されています。またCD10には、マルティノンの離任後もしくは没後にようやく発売されたシカゴ響とのオーケストラ曲4曲(日本で世界初CD化された時は大きな話題となりました)、それに初めてCD化される、1969年にフランス国立管を指揮してコロンビアに録音したカサドシュのピアノ協奏曲第2番(ピアノは作曲者自身による)という超レア音源を収録しています。
今までCDとして発売された音源については一番新しいリマスター音源から新たに24ビット・リマスタリングが施され、未CD化音源については、オリジナル・アナログ・マスターテープからの最新リミックス&24ビット・リマスタリングが行われており、音質的には申し分ありません。
44ページのオールカラー別冊解説書には、クリストフ・シュリューレンによる新規ライナーノーツ、シカゴ響ローゼンタール資料室提供のマルティノンのポートレイト13点、マルティノンのサイン、各アルバムのジャケ写や詳細な録音データを網羅したトラック・リストが掲載され、これまでリリースしてきた「アルバム・コレクション」と同様に、資料的にも充実した出来になっています。
(ソニークラシカル)
【収録予定曲】
<CD1>
・ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
[録音:1964年11月]
・ルーセル:「バッカスとアリアーヌ」第2組曲
[録音:1964年12月]
<CD2>
・ヴァレーズ:アルカナ
・マルタン:7つの管楽器とティンパニ、弦楽器のための協奏曲*
[録音:1966年3月]
<CD3>
ニールセン:
・交響曲第4番「不滅」Op.29*
・ヘリオス序曲Op.17*
[録音:1966年10
12月]
<CD4>
・ビゼー:「アルルの女」第1&2組曲
[録音:1967年4月]
・マスネ:タイスの瞑想曲
[録音:1966年12月]
・ラロ:歌劇「イスの女王」*
[録音:1967年5月]
<CD5>
・バルトーク:バレエ組曲「中国の不思議な役人」Op.19
[録音:1967年4月]
・ヒンデミット:気高い幻想
[録音:1967年10月]
<CD6>
・マルティノン:交響曲第4番「至高」*
[録音:1967年11月]
・ピーター・メニン:交響曲第7番「交響的変奏曲」*
[録音:1967年10月]
<CD7>
ウェーバー:
・クラリネット協奏曲第1番へ短調 Op.73*
・クラリネット協奏曲第2番変ホ長調 Op.74*
ベニー・グッドマン(Cl)
[録音:1967年5月、1968年5月]
<CD8>
ラヴェル:
・スペイン狂詩曲
・マ・メール・ロワ
・序奏とアレグロ
[録音:1968年4~5月]
<CD9>
・ビゼー:交響曲ハ長調
[録音:1968年4月]
・メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」~序曲、スケルツォ、夜想曲、結婚行進曲*
[録音:1967年7月]
<CD10>
・カサドシュ:ピアノ協奏曲Op.37*
ロベール・カサドシュ(P)
フランス国立管弦楽団
[録音:1969年6月]
・パガニーニ(フレデリック・ストック編):無窮動
[録音:1966年3月]
ラヴェル:
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・ラ・ヴァルス
[録音:1967年5月]
・ラヴェル:ボレロ
[録音:1966年3月]
≪全点24ビット・96kHzマスタリング
*は今回オリジナル・アナログ・マスターから新しくリミックス≫
【演奏】
ジャン・マルティノン(指揮)
シカゴ交響楽団
カテゴリ : ニューリリース | タグ : ボックスセット(クラシック)
掲載: 2015年01月30日 17:54