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インタビュー

Jim O'Rourke(2)

〈取るに足らない〉ロックンロール

 「まず〈『Eureka』パート2〉みたいな作品は、絶対避けたかったんだ。そして、前作よりも言葉に重点を置くように注意した。 それから、スタジオ作品も作りたくなかった。バンド・サウンドでいこうゼって、ね。ベッドルームで100トラック使って録るようなものじゃなくてさ。 まあ『Eureka』はそうだったんだけど(笑)。 あと、タイトルに関しては、ここ3枚はニコラス・ローグの映画から取ってるから、内輪のジョークみたいなところもあるんだよね (注:『Insignificance』=邦題「マリリンとアインシュタイン」、『Eureka』=邦題「錆びた黄金」、『Bad Timing』=邦題「ジェラシー」)。 でも、今回のタイトルに限れば、全曲の歌詞に共通したテーマでもあるんだ。 曲の登場人物はそれぞれ、大きな世界の中で、自分の〈取るに足らなさ〉を痛みをもって認識しつつあるんだ」。

 〈言葉に重点を置く〉。 一聴、ハードにドライヴしていくロックンロール・ナンバーでも、歌詞を読んでみれば、もしくは、テンダーな歌声を耳にするだけでも、 そこにはパーソナルな、そして少々冴えないオルークの、いつものあの姿が浮かび上がってくるだろう。

「笑っちゃうんだけど、時々友達で、僕のレコードを親にプレゼントするヤツとかいてさ。僕のバンドでベースを弾いてるダリン・グレイなんか、いつもレコードを母親にあげてるんだ。 で、彼のお母さんはお母さんで、〈まあステキ!〉とか言ってるらしいんだけど(笑)。 歌詞を聴いてなくて良かったねって皆で笑ってたんだよね。 (歌詞とサウンドの対比という点で)僕はコントラストが好きなんだ。 表現をおもしろくすると思うし。とくに歌い方っていうのは、その曲の歌詞やプロットに左右される部分がすごく大きい。 言葉の効果にはいつも敏感でありたいし、そこに意識的にちぐはぐな音楽を持ってくることで、際立つものがあると思うんだ。 最初にそういうコンセプトを意識したわけじゃないけど、正反対のことを同時にやるっていうのは僕のキャラクターだからね」。

 〈正反対のことを同時にやる〉。そう言われてみれば、彼はいつでももっともありえないフィールドに、微笑みを浮かべてトコトコ足を踏み入れてきた。 『Insignificance』と同時期に、一転、〈Power Book〉で録りためた作品集を、オーストリアのレーベル、メゴから出す予定もあるとか。 それに、いつだったか『Eureka』の後、彼に次の作品について訊いたことがある。 その時は「400トラック・レコーディングだよ。テヘヘ」と言ってたんだけど……。

「そう、今回は極めてストレートにやったんだよね。でも、あの時はそのつもりだったんだよ(笑)。僕の場合、アルバムが完成するまでの間、初めのアイデアでそのまま進行することは滅多にないんだ。2年前、レコードを作り始めた時は、大きなスタジオで、使う楽器も100種類はあった。でも作業を始めて1年経って、気に入らなくてご破算にしたんだ。そういうやり方では曲が生きないってわかった以上、こだわってても無駄だからさ。今回は最終形に至るまでに、2年間で2通りのレコードを作って、ほとんど完成させたところで曲ごと全部捨てられちゃったからね。で、その後、すごいスピードで新たに曲を書き上げ、レコーディングして、この新作を完成させたんだ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年04月18日 17:00

更新: 2003年03月07日 18:56

ソース: 『bounce』 226号(2001/10/25)

文/福田 教雄