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インタビュー

Raphael Saadiq(2)

手にした瞬間から、ヴィンテージ

 その〈ゴスペルデリック〉なアルバム『Instant Vintage』は、世界中のDJたちに捧げられている。

 「〈Instant〉と〈Vintage〉って確かに矛盾してる言葉なんだけど、単純な言葉遊び的感覚で付けたんだ。DJの人たちってレコードを使うだろ? でもアメリカじゃレコードを手に入れるのは大変なんだ。だから彼らは探し求めていたレコードを手にした瞬間、それが新譜だろうが昔のレコードだろうが、それは彼らにとっては骨董と同じ価値を持つから大切に扱う。つまりこのアルバムは、手にした瞬間にコレクターズ・アイテムになるような価値があるってこと。CDでも同じ感覚ではあるけど、ただ今回はDJの人たちに敬意を表したんだ」。

 DJ=ターンテーブルだが、彼は今回数曲で、バック・ヴォーカルとギターをあらかじめ録ったレコードをわざわざ作って、それをDJにスクラッチさせるという技に出た。

 「僕の求めていたのは楽器での即興演奏なんだ。生楽器は自分が出したいサウンドを的確に出すことができるから。みんな自分の欲しいサウンドを得るためにサンプルとかをよく使うけど、僕はギターを弾けば、欲しいサウンドをすぐ出せるからそんな必要はないんだ」とキッパリ。しかし、生楽器をフィーチャーしていないトラックもわずかにある。それがハイ・テックのプロデュースによるインタールードの2曲だ。

 「彼はトラックメイカーとして最高峰の1人だね。今回は彼を世界にもっと知ってもらおうと思って。“Be Here”のリミックスも彼といっしょにやって、もうすぐ12インチでリリースする予定だよ。その曲をきっかけにみんなが僕とハイ・テックのコンビに慣れてもらえるといいと思ってる。なんせ、このコンビの曲は今後たくさん出てくるから。でも一気に出さない、小出しでね」。

 アルバムには前出のディアンジェロ、カルヴィン・リチャードソンら渋い男性ヴォーカリストたちも参加しているが、アンジー・ストーン、T・ボズ、ウィリー・マックスのスカイなど、女性ヴォーカルをフィーチャーした曲が多い。“OPH”では女性ヴォーカリストだけに歌わせている。自分のソロ・アルバムにもかかわらずだ。

 「スカイとスタジオでギターを弾きながら話をしてたときに、なんとなくメロディーが出てきて、彼女が突然それに詞をつけて歌い始めたんだ。そうやって出来上がった曲だから、彼女だけのヴォーカルになった。T・ボズなんて本当に才能溢れるアーティストだから誰だっていっしょにやりたいと思うだろ? 誰も出すことのできない、あの嗄れたユニークな声がいちばんの魅力だね。しかも彼女自身、それが重要だと意識しているわけでもないから無理して出さない。全くの自然体。自分がどんなに才能溢れるシンガーか全く気付いてないんだよね。彼女は」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月30日 14:00

更新: 2003年03月06日 19:34

ソース: 『bounce』 232号(2002/5/25)

文/Kana Muramatsu