インタビュー

4hero

世紀末から覗き込むのではなく、新世紀から仰ぎ見た〈未来〉の姿──密林のジャズから、無限の可能性を内包したフューチャリスティック・ミュージックへ。4ヒーローの旅する道程は、そのままソウルの未来へ続いている……

的を射た人選が醸し出すグルーヴ

 「中田にアーセナルへ来てほしかったねぇ……」。

 サッカーの話をすると止まらないディーゴ。彼の周囲にはさまざまな プロジェクトがうごめいているが、もっとも有名で、拠点となるプロジェクト といえば、マーク・マックとの4ヒーローだ。フランスを震源地に世界中が サッカーに支配されていた98年夏の『Two Pages』以来となる、待望の新作 『Creating Patterns』とともに彼らが帰ってきた。

 「今回はこれまでのようなコンセプト性はない」。

 崇高な意志を抱かせた大作(最初はCDでも2枚組だった)の『Two Pages』とは 打って変わって、通算4作目にしてトーキング・ラウドからの第2弾となる新作 には、アルバム全体を覆うようなコンセプトはないという。

 「もっと幅広いテーマを扱っているというか、リスナーにも共感しやすいテーマ が多くなってる。“Something Nothing”も“Hold It Down”も“Another Day” も、どちらかというと日常生活に密接したナンバーだ。これまではたしかに アルバムごとにコンセプトがあったけど、今回はもっとバラエティーに富 んでいるよ」。

 ディスクをセットしてボタンを押せば、彼らの音楽への愛情、その温 もりのある幅広い志向のサウンドに包み込まれる。全曲それぞれに存在感 があり、魅力的な曲が並ぶ。今回、まず話題になったのはもちろん、 ファースト・シングルの“Les Fleur”。ミニー・リパートンのカヴァーだ。

 「カヴァーした理由は、ジャイルス・ピーターソンから盛んに薦められたから (笑)。彼いわく〈4ヒーロー以上にこの曲を上手にカヴァーできるヤツ らはいない〉とのことで、ひとつのチャレンジだと思ってやったんだよ」。

 ……とは語るが、ロータリー・コネクションからソロ・デビューした ミニー・リパートンの69年のアルバム『Come To My Garden』は、昔からディーゴ お気に入りの一枚。“Les Fleur”はその幕開けを飾る曲だ。そして、『Two Pages』時にやったインタヴューでも語っていたが、プロデューサーの チャールズ・ステップニーは、ディーゴが最大級のリスペクトを払う偉人 のひとり。ストリングス・サウンドが特徴の4ヒーローは、 ステップニーズ・チルドレンであることを公言する。

 「アース・ウィンド&ファイアもそうだけど、これまで彼のさまざまなアルバム を聴いてきた。ジャケットをひっくり返して、〈Charles Stepney〉とクレジット されてれば無条件で買うね! それくらいファンなんだ。彼はこの手のサウンドの 先駆者だからね」。

 新作にはゲストが多数参加しているが、その豪華さ以上に、的を射た人選に 何度も頷く。まずは、チャールズ・ステップニーがプロデュースを手掛けた名盤 を残しているテリー・キャリアー。ディーゴたちは以前、彼のリミックスを手掛 けたことがあったが、共演は今回が初めてだ。ジャイルスも喜んだ?

 「知らねーよ(笑)。テリーはスタジオでの作業が大好きだから、雰囲気もスゴ く良くて楽しかったよ。共演は初めてだけど、マークがテリーのアルバムを手 伝ってるんだ。そのアルバムはまさにテリー・キャリアーって内容らしい。まず 最初に彼自身があって、そのほかは味付けでしかないんだ。マークもそのへんを 念頭に置いて作業してるみたいだよ」。

 アルバム全般ではこれまで以上にワールドワイドなエッセンスが聴けるが、 ヴィオラなどの弦楽器セクションやリズム隊が、東洋からアフリカまでを旅させ る“Twelve Tribes”には、ジャズ・ヴォーカル/スポークン・ワード界から マーク・マーフィーが参加している。

 「この曲はマーク(・マックの方)の担当だったから、僕は立ち会 わなかったんだ。なかなかおもしろかったらしいよ。あらかじめ曲の趣旨を 説明し、それに応じてプレイしてもらったんだ。この曲は12という数字がキー だから、12の倍数で変拍子があったりするんだけど、どうもマークは ワン・テイクで録ったらしいよ」。

 また、レア・グルーヴ学の基礎講座で勉強することになるヴァイブ奏者、 ロイ・エアーズとの共演曲も収録。彼にとっては再演となる“2000 Black”は、 ディーゴが意欲的な2000ブラックの象徴的な曲であり、昨年の『The Good Good』 にMMブラック名義で収録されたものと同じ曲。同じセッションで録音された別テイクだ。
 
 「〈いつか、なにかいっしょにやろう〉と話をしていて、やっと実現したんだ。 この曲は“2000 Black”というぐらいだから、すべて2000年に日の目を見 るはずだったんだ! ひとつは『The Good Good』に収録されたから良かったけど、こっちの方は“2001 Black”になってしまったよ(笑)」。

 その『The Good Good』には4ヒーロー名義で、ジョン・コルトレーンの名 曲“Naima”も収録されていた。多くのアーティストにプレイされている曲で、4ヒーロー版はもともとジョン・コルトレーンのトリビュート盤のために制作 されものだった。マイゼル・ブラザーズのスカイ・ハイ・プロダクション もしかり。ディーゴはこうした偉人たちに育てられた。

 「僕は音楽学校に通ってたわけじゃないから、僕の先生はこういう人 たちなんだよ。彼らのレコードに対して、僕は深い感謝の意とリスペクトを抱 いている。もし仮に、自分が音楽学校に行くなら、彼らみたいな人たちを講師 に迎えたいな。朝の授業にロイ・エアーズが出てきて、午後はチャールズ・ステップニーだったら、さぞかし学校も楽しいだろうね(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月30日 17:00

更新: 2003年03月03日 22:03

ソース: 『bounce』 226号(2001/10/25)

文/栗原 聰