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インタビュー

PALM DRIVE

謎の豪華プロジェクト=PALM DRIVEの仕掛け人、AKIRAの正体を探れ!!

TVで何気なく聴いていたJ-Popの曲に〈オッ〉と思うと、多くの場合はそこにAKIRAの名前を発見できたものだし、日本産のR&Bを聴いていたらそんなことしょっちゅう。歌謡曲的なメロディーにも不思議に噛み合いつつ、US産R&Bのリスナーをニヤリとさせるエッジのあるトラック……実に柔軟なセンスで咀嚼されたR&Bサウンドを聴かせてくれるんです。そんなAKIRAが2002年にスタートさせたプロジェクト=PALM DRIVEがいよいよアルバムをリリースする。シングルのたびに多彩なコラボレートが楽しめたけど、今回のアルバム『BLOCK HOLIDAY』もまた豪勢な一枚! だけど……その運転席に座るプロデューサー/シンガーのAKIRAっていったいどんな男なのよ?

札幌出身のAKIRAは、高校時代にベースを始め、当初はフュージョンをよく聴いていたという。だけど、アメリカ留学から戻った日本でガイをはじめとするニュー・ジャック・スウィングのサウンドに触れ、R&Bに開眼。そして、トラック制作と歌を同時に開始し、ある楽曲のオーディションに2年連続で最終選考に残ったのを契機に東京へと拠点を移す……ってのが黎明期の略歴。

「でも、最初はAORとか呼ばれてた(笑)。俺はR&Bのつもりだったんですけど」。

90年代後半、〈R&Bブーム〉なるものが訪れる前の話ですな。そんな時代ゆえか、機材選びからトラックメイクまでほとんど独学だったというからビックリ。

「当時はR&Bのトラック作ってる人なんて周りにいなくて、バンドがコピーをやる感覚と同じで、海外のR&Bをひたすら聴いて〈ああ、ハイハットは8分で鳴ってればいいんだ〉とか修得してった感じ(笑)。最初に今井了介と会った時もビックリしたんですよ、こういう人いるんだと思って。彼にはこっち来てすぐ会ってて、彼が小柳ゆきのデビュー前のデモテープを作る時に俺がギターやベースを弾いたりしましたね。機材も使えそうな音色入ってるから……って、たまたまJV2080ってのを買ったら、それがたまたま向こうのヒップホップやR&Bで主流の音源だったから、良かった(笑)。拡張性があるから、とかセコい理由で買ったから」。

実際、彼のトラックを聴いて思うのは、(言葉は悪いけど)そんなに凝ったことをやろうとしてるわけじゃない、ってこと。

「そうそう、サッパリ作りたいと思うんで。たぶん機材量はアマチュアの人に負けてます(笑)。たくさんあると制作に集中できなくなるから、機能のいいやつを1、2個持っててそれでなんとかするって感じ(笑)」。

手近な機材だけでアイデアを形にしていくというその考え方は、現在USのド真ん中でやってるクリエイターに近い。ともかく、その溢れんばかりのクリエイティヴィティーは、2000年を境に大放出される。しかし、こんなに急激に仕事が増えた理由はどこにあるんでしょうね?

「マネージメントがちゃんと付いたり(笑)理由はいろいろだろうけど、ちょうどUSのR&B的なサウンドを作る人が増えてきたってのもあると思うんですよね。日本ではずっとUKソウルっぽいのが主流で、俺もそっち系じゃないとウケないのかな?と思ったりしたこともあったけど」。

そして、その手腕はいわゆるJ-Popの範疇でも求められはじめる。筆者も、F.O.H“JUICY”の艶なグルーヴとBoA“気持ちはつたわる”のパンピンなビートが同じ人によるものだとは知らずに聴いてたもんな。

「ウチのマネージャーがつんく♂さんサイドに音を持っていった時、〈おもしろいね〉って感覚を持ってくれたことにビックリしました。V6の時もそうだし、制作側の人が寛大で仕事の場が増えたってのは大きかったですね。その後もつんく♂さんの曲は何曲もやらせてもらってますけど……以前つんく♂さんに〈父ちゃんにビートルズ聴かせてもらってました〉とか話したら、〈ああ、それでAKIRAはちょっと歌心あるんやな~〉って言われて。〈ちょっと〉ってのには引っ掛かりつつ(笑)、ビートルズ好きなつんく♂さんと繋がる部分があるのかなと思ったり。コード感とか出てたりするんでしょうね」。

そして、PALM DRIVEがスタート。でも、ソロでやる発想はなかったの?

「そうですね。せっかく周りのみんながそれぞれ音楽をやってるんだから、仲間といっしょにやりたいっていう……だから、もともとの縁がない人は参加してないし。アルバムには現行モノじゃない雰囲気のR&Bもあって、懐かしい雰囲気も新しいものもある。音も他の人に提供するもの以上に削ぎ落とした感じで……まあ、自分のものだから好きにやってる感じです。俺は、リアルタイムで聴いてる向こうのR&Bとかも基本的には採り入れてるんだけど、なぜか俺がやるとそんなにヤリ過ぎにはならないし、ちょっと意識するぐらいでちょうどかな」。

詳細はコラムをどうぞ。さて、彼も関与したSUITE CHICなど、日本産R&Bがふたたび盛り上がりつつあるここ最近ですが?

「やっとこういう感じになってきたな~と思ってますよ。SUITE CHICの雰囲気は安室ちゃんの新しいシングル(“shine more”)にも凄く反映されてる気がしたし、ああいうところから変わっていくのかな~とちょっと感じつつありますね」。

確かに。この後もプロデュースやアレンジの仕事が膨大に控えているというAKIRA。凄く仕事が早そうな印象だけど……?

「う~ん、普通なんじゃないですかね。でも、北海道人はせっかちなんで、機材をいじるのはガチャガチャ早いのかも。エレベーターが待てないで階段使うしね(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年04月03日 10:00

更新: 2015年03月17日 12:27

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/出嶌 孝次