インタビュー

Nelly Furtado(3)

溢れんばかりのミュージシャンシップ

 けれど無論サウンドのユニークさも健在で、独特の折衷感覚にさらなるエッジが加わっている。バンジョーやマンドリン、バングラを思わせるエフェクト、マルコム・マクラーレンの“Buffalo Gals”(82年発表のヒップホップの古典!)からサンプリングしたビートなどなどを1曲に編みこんだ、先行シングル“Powerless”が好例だろう。その一方でアコギの弾き語りで聴かせる曲があったりと、全編にオーガニックな〈フォーク楽器〉という共通項を散りばめつつ、ドラマティックに抑揚を効かせている。プロダクションに関してはミッシーやティンバランドの起用も噂されていたが、結局大半の曲は前作から引き続き、デビュー前からの同志である元フィロソファー・キングス(トロント出身のジャズ・ファンク・バンド)のブライアン・ウェストとジェラルド・イートンと共にみずからが担当。また、彼女の広範囲な趣味が窺えるゲストのラインナップも興味深い。かたやブラジル音楽界の巨人、カエターノ・ヴェローゾにバンジョー奏者のベラ・フレックといった大物、他方ではインキュバスのマイク・アインジガーやベックの作品などでドラムを叩くジョーイ・ワロンカーら米西海岸の若手ミュージシャンをフィーチャー。カエターノらを除けば、シンガーではなくプレイヤーばかりだ。

「ミュージシャンはみな純粋に音楽への愛情を原動力にして、お互いを支え合って活動している」というトロントのシーンの精神を採り入れ、意図的にプレイヤーにスポットライトを当てたのだとか。こうして、ボーダレスに世界中の音楽をミックスするという21世紀的な表現方法と、自分と家族の歴史を語り継ぐという伝統的な慣習を融合させた本作は、まさに『Folklore』=〈民族伝承〉のタイトルにふさわしいプライドと冒険心に満ちたアルバムである。

「今のクレイジーな世の中、すべてが手の届かないところに去ってしまったと感じることも多いだろうけど、そんなことないわ。素朴な物語を集めたこのアルバムを聴けば、人間がいかにシンプルな存在であるかを思い出してもらえるはず。例えばわたしにとっては、ネットサーフィンするよりも祖母を訪ねて彼女の話を聞くほうがよっぽどおもしろい。こういう時代にこそリアルなもの、シンプルなものを見極めて、それをしっかり握り締めることが大切なのよ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年01月22日 13:00

更新: 2004年01月22日 17:48

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/新谷 洋子

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