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インタビュー

R. Kelly(3)

神は俺をサンプルに使った

 一方、ディスク〈U Saved Me〉は、彼いわく「教会に行きたくなるアルバム」だ。

「ジャイヴ側が提案してきたんだ。それで自分もいいアイデアだって思って賛同した。〈リマインダー〉として、こういったアルバムを作るのはいいことだと思ったんだよ。音楽は信じられないような力で人々を癒すことができる。例えば、夫婦や恋人のトラブル、または学校での成績が思わしくない子供たち。そんな人たちが“I Believe I Can Fly”を聴くと勇気付けられ、もっと頑張ろうと思うようになれる。セリーヌ・ディオンに書いた“I'm Your Angel”もそうだ」。

 彼が例に挙げている過去の作品をさらに濃縮し、ゴスペルに限りなく近い内容にまとめ上げたのがこのディスクだ。例のセックス・ビデオ・スキャンダル以来、彼は窮地に立たされ続けてきたわけで、ここで歌われる〈救い〉は自身の体験の告白であり、それを人々に伝えるものだという。

「神は自分を〈サンプル〉として使った気がするんだ。誰かサンプルになって、神とは何か、神には何ができるのか、神がいかなる逆境をも乗り越えてきたかということを、世界の人々に見せなくてはならないからね。そのサンプルに選ばれて自分は嬉しく思っているよ」。

 ケリーが「R&Bインスピレーショナル」と呼ぶこの音楽は、最上級のアーバン・ゴスペルであり、なおかつケリーのオリジナリティーをまったく損なっていない点で素晴らしい。ケリー・プライスやキム・バレル、それにタレントショウ・コンテスト「シカゴ・アイドル」のウィナーであるモーリス・マホンを迎えた“3-Way Phone Call”は、“Down Low(Nobody Suppossed To Know)”などで人気を博したケリーお得意のドラマ仕立ての展開が秀逸。電話やショッピング・カートといった小道具を効果的に使った“U Saved Me”のプロモ・クリップもシンガーのパフォーマンスというよりミュージカルのよう。ちなみに同曲のクリップ撮影の際にはジェイ・Zやタイリースが会場に来ていたらしいのだが、彼らが映像のなかに顔を出すことはない。

「このプロモ・クリップはただのパーティー・ビデオじゃなくて、シリアスな作りにしたかった。この“U Saved Me”という曲のスピリットを尊重したかったんだ。この曲は神が人々を救う──交通事故やガンから──そういったテーマの曲にアーティストのキャミオが入ると、シリアスさが欠けてしまうだろ? ジェイ・Zもタイリースもそのへんは理解してそっと観ててくれたから、とても感謝してるよ」。

  ケリーが「弟みたいなもの」と話す間柄のタイリースはともかく、かつてケリーとのダブルネーム・アルバムをリリースしながら、セックス・ビデオ問題が浮上するや否や手を引いてしまったジェイ・Zがいまなぜ?という疑問は当然沸くところ。実は、このニュー・アルバムを引っさげてのツアーは、〈The Best Of Both Worlds Tour〉としてジェイ・Zといっしょに回るらしいのだ。これは見逃せないビッグ・イヴェント。ぜひともいまだ訪れたことのない日本へも……と期待してしまうところだが、飛行機嫌いで有名な彼の足はツアー・バス。

「いま、日本行きの船を建設中なんだ(笑)。あと1年くらいでできると思うけどね。(マネージャーに)あの船、いつできるんだっけ? (2006年よ、との返答)いや、本当に行きたいと思ってるし、行かなきゃって話し合ってるところなんだ。きっと行くよ。潜水艦か、船か、どうにかして……。本当に行きたいよ。行ってみたいね」。

 これ、本気にしていいですか、ケリーさん。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月16日 13:00

更新: 2004年09月30日 18:32

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/荘 治虫