インタビュー

Faith Evans(2)

やり残したことはまったくない

 そんなムードから生まれた楽曲群の和やかで仄明るい印象はアルバム全体を包んでいるが、それは意図したものだったようで、「今回は、日々の生活をテーマにしたダンサブルで楽しい曲を書きたかったの。エモーショナルなものはあるけど、悲しい曲なんてひとつもないから!(笑)」と本人も楽しそう。アルバムの各所にはソウル曲のネタ使いが散りばめられ、フェイスの歌唱も過去最高にソウルフル……だけど以前のようにブルーな風情は脱ぎ捨てたかのようだ。先述したアイヴァン&カルヴィン曲の味わいはもちろんのこと、アルバムの冒頭をドリーミーに彩るネプチューンズ製の“Goin' Out”、盟友チャッキー・トンプソンによる突貫ファンキー・ソウル“Mesmerized”、さらにサクラメントのファンク集団=オリジナル・ヘッズによる“Lucky Day”など佳曲以上の名曲がひしめき合う。もちろんそこには夫トッド・ラッソウの名もある。

「トッドは私の〈もっとも厳しい評論家〉だけど、もう慣れたわ(笑)。毎日いっしょに曲を作っているのよ。女性の表現方法についてアイデアを出して貰うことがよくあるから……皮肉だけど(笑)」。

 昨年アトランタからLAに移ったことも大きかったようで、「毎朝、陽の光を浴びて目覚めるのがとってもいい気分(笑)。新作を聴けば、開放的な雰囲気を感じて貰えるでしょうね。ハッピーになれる環境へ移ったことが、音楽にも表れていると思う」。

 その〈環境〉とはレーベルも含めた言い回しなのだろうが、息の合ったマリオ・ワイナンズとのデュエットも収録されているし、彼女自身も「バッド・ボーイの仲間と縁を切ったわけじゃないし、愛情はあるわ。将来的にはパフィとも仕事をしたい」と話す。そして、〈今回やり残したことをあえて挙げるとしたら?〉と尋ねると、この〈The First Lady〉はキッパリと言い放った。

「そう思うのは初めてのことだけど、やり残したことはまったくない。言い切れるわ」。

 凄いことに、彼女に関してはいまなお〈最新作=最高傑作〉なのだ。「来年には出せると思う」というゴスペル・アルバムやフィットネスのDVD(そういえば相当スリムになった)も控えているし、何とも意欲的な新生フェイスの今後が実に楽しみになってきた。ちなみに話題を3人の子供たちに向けると……「上から11歳、8歳、6歳で、3人とも音楽の才能があるけど、音楽に専念する前に大学へ進学しないと(笑)。でも、子供たちが私のライヴァルになるくらいのアーティストに成長しないと、私がずっと働き続けることになるわね!(爆笑)」。

『The First Lady』を包む満たされたヴァイブの秘密はこんなところにも。彼女が幸せな歌を紡いでいくのは、まだまだこれからなのかもしれない。

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掲載: 2005年03月31日 13:00

更新: 2005年04月07日 20:11

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/出嶌 孝次