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インタビュー

cro-magnon(3)

悪いオタク!?

 ライヴを重ねながら、確固たるグルーヴ観を幹とし、昨今のオルタナティヴ・ハウスに枝葉を伸ばしながらオリジナル曲を量産していく。2005年末にリリースしたアナログ盤『cro-magnon EP』では、「こういう12インチがあったら俺たちも買うな、っていう」(大竹)基準をもとに、テイストの異なる5曲(うち1曲はビート・トラック)が収録された。なかでも勝負曲といえるA面の1曲目に選ばれたのは、リンドストロムやプリンス・トーマスをはじめとする北欧ディスコ勢の動向ともリンクするようなスペース・ディスコ調の楽曲“Space Love”だった。ところがこのEP、B面2曲目の楽曲が意外なところで評判となる。

「EPが出来た時は“Space Love”とかを、あのへん(北欧)の人たちに向けて〈どうでしょう〉って出した感覚はあった。だけどジャイルズ・ピーターソンが“Kai-Ho”を彼のラジオ番組〈Worldwide〉でかけて。いやー“Kai-Ho”が最高っすよねって(笑)。その一方で、フェリックスは“Space Love”をプレイしてくれているし。バンドの両面をプレゼンテーションすることができたと思う」(コスガ)。

“Kai-Ho”という曲は彼らのジャム・バンドとしての一面がハウスのメソッドと見事に融合しており、当人たちの無意識下でオリジナリティーが発揮された一曲だといえる。

「ジャイルズが凄いなと思ったのは、俺らのことを知らない人の前でライヴをやっても“Kai-Ho”がいちばん盛り上がること。〈解放〉っていう曲名だけあって、ある意味キャッチーな曲なのかもしれない」(大竹)。

 思わぬ〈ワールドワイド〉なリアクションを経て彼らはファースト・アルバム『cro-magnon』を完成させた。結果として収録されたのは7つのインタールードを含む全18曲。前述のEPに収録された曲のほか、ハリー・シューマン“Underwater”のようなドラマ性をもったディスコ・ファンク“逆襲のテーマ”、フィラデルフィアのワーシップのようなダブ・ハウス勢とも共振する“Astro Black”、ムーディーマンさえ嫉妬しそうなビートダウン“Silent Supreme”のほか、Loop Junktion時代からのファンを狂喜させるようなメロウネスももちろんある。「足し算よりも引き算で考えますよね」(金子)という絶妙な音の配列と、素晴らしいインタールード(これ重要)に導かれ、ある種の一貫性をもってアルバムは進んでいく。時にはシーケンスの上でルーディーに暴れるそのサウンドは、まるで……〈悪いオタク〉の音楽だ。

「悪いオタク(笑)って……パンチラインですね。ヒップホップもそうですけど、不良性に憧れを感じるところはありますね」(大竹)。

 取材後の深夜に渋谷・桜ヶ丘を歩いていると、赤ら顔の大竹重寿がクラブ〈The Room〉の前から出てきた。ちょっと一杯ひっかけるつもりで三杯呑んだ、という。そういえばインタヴュー中も、会話が脱線すると彼らは決まってナイトライフの土産話を楽しげに披露してくれた。例えば、ALTZがDJプレイのフィニッシュにゲイリー・ムーアをかけたエピソードや、三宅洋平(犬式)のちょっといい話などなど……『cro-magnon』の、そしてcro-magnonの〈雑食性〉はこのような夜の人間交差点で磨かれたものなのかもしれない。cro-magnonは驚異的な速度で進化中の音楽性と……肝臓を備えたバンドだ。

▼cro-magnonのプロデュース/演奏参加曲を含むアルバム

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年06月01日 22:00

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/リョウ 原田