インタビュー

来日ツアーのバックを務めたCOOL WISE MENが受け取ったリコからの〈贈り物〉

リコ・ロドリゲスのことを〈生きる伝説〉なんて言葉で賞賛してみたくなるのは、彼の奏でるトロンボーンの音色にいつまでも褪せない真っ直ぐな美しさがあるからなのはもちろんだが、そこから紡ぎ出されるフレーズや生み出される音楽が、ジャマイカン・ミュージックの過去と未来を繋ぎ、さまざまなジャンルからの影響/それらに与えた反響をそのまま体現しているものだから。そして、それは現在進行形で深化し続けている。いまでも毎日数時間の練習は欠かさないというリコの来日公演のサポートを、ジャマイカ音楽の貪欲な奥深さを追究し、かつスカの持つラフでタフな魅力をリアルタイムにアップデートしているCOOL WISE MEN(以下CMW)が務めたのは、至極真っ当な巡り合わせと言える。

「最初は、予定された曲をキチッと覚えなきゃいけないんじゃないか?とか、そんなことばっか気にしてたけど、いっしょに演ってみたら〈もっと楽しめ、リラックスしないとイイ音楽が生まれてこないんだぞ〉って言われて」(篠田、ベース)。

「酒を飲めとも言われた(笑)。毎回曲を変えたし、ステージ上で最初からいきなり予定にない曲を演ったり。その場のハプニングを楽しむような感じでしたね」(光風、トランペット)。

 例えば、最終公演の東京でこんなシーンがあった。各パートがソロを回すときに、リコの狙いか気まぐれか、篠田のソロを10分近く延々とプレイさせ続けた。篠田が〈もう勘弁〉って表情を見せても、リコはニヤニヤしながら〈まだまだ〉と続けさせる。それはまるでジャッキー・チェンの映画に出てくる老師と弟子の特訓風景のようでもあったが、きっとあれは極限に達することで初めて手癖や力みや先入観から解放され、その演奏家ならではのピュアなフレーズが生まれてくることを、リコ自身が体感的に知っていたからこその行動だったのだろう。湯川も、同じトロンボーン奏者としてリコと並んでステージに立ってみて「(隣でリコが吹いてるのを)ずっと観てましたよ。デカすぎた。で、ずっとソロ吹いてたもんね。ホントびっくりしました」と、感嘆してやまない。

「〈そろそろいきますよ〉っていう合図を出すまで、延々とソロを吹いているからね。しかも後半にいくにつれ、どんどん音が出てくるし、フレーズも出てくる。いろんな引き出しを持ってるから、毎回同じことやらないし。俺たちのホーンのアンサンブルにも、思ってもみなかったようなハモりを乗せてきてくれたり」(光風)。

「リコの身体に染み付いてるのはレゲエだけど、やってることやスタイルはジャズ・ミュージシャンに近い。やってることが自然とジャズに近くなってる。ヘタに何年も勉強するよりも、あの4日間のほうが覚えたり吸収することが多かった」(篠田)。

 リコの来日前には制作が終わっていたCMWのニュー・アルバム『Salty Dinner』を聴くと、やっぱり今回のバックは彼らが適任だったんだなあと再確認できる。ジャマイカ音楽全般に深くコミットした活動を続ける彼らが、改めてスカというスタイルに真正面から向き合った本作から聴こえるのは、多様な音楽性が反映されながら、プレイヤーそれぞれの個性がムキ出しになったピュアなフレーズ。それらが絡み合ってアンサンブルを生み、グルーヴを生む──いちばん最初にあるのは何かのスタイルを再現することじゃなく、その人にしかできない音楽を奏でて楽しむということ。その積み重ねが後から歴史として語られていくのだ、と。それは、何十年も変わらぬリコの姿勢とオーヴァーラップして見える……なんて、いささか強引すぎるまとめだろうか?  

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掲載: 2006年06月29日 23:00

更新: 2006年07月24日 22:03

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/宮内 健