インタビュー

コーネリアス

これまでになく細密な音の粒子を複雑に敷き詰めた、高精細のサウンドが写し出す緩やかでイノセントな風景――5年の熟成を経てコーネリアスから大傑作が到着!!

ミニマルにも、ちょっと派手な方向にも


 「今回は聴いている人の感覚が優先される音楽。前作ではいわゆる環境音みたいなものを使って具体的な情景が浮かぶ音を入れていたんですけど、今回は最初と最後に入っている風鈴の音に象徴されるような、聴き手がなにかを想像した音とマッチングが良い音をわりと使っているんです。風鈴は音として鳴っているものなんだけれど、表している雰囲気は静けさだったりして」。

 前作『POINT』より5年という歳月を経て届けられたコーネリアスのニュー・アルバム『SENSUOUS』。思えば前作以降、アート・リンゼイやブラジル音楽の新たな担い手のひとりであるカシンらとの共演や、SKETCH SHOWのライヴへの参加に端を発する元YMOのメンバーたちとの交流など、さまざまなアーティストとのコラボレーションを積極的に続けてきた。さらに、ブロック・パーティーからスティングにまで至る幅広いアーティスト作品のリミックス・ワークを通じて、彼独特のリズムとアコースティック・ギターのアンサンブルは、世界的なシグニチャーとして完全に定着した。

「(『SENSUOUS』は)わりといろんな作業と併行して作っていったので、レコーディングにもなだらかに入っていったんです。『POINT』のときはわりと削ぎ落とすほうに意識が向かっていたけれど、今回は無作為に曲を作っていって、それが並んだときにある共通性みたいなものを見つけていこうと。実際出ている音は、『Fantasma』の頃のようなゴチャゴチャしたものではないんですけれど、それは『POINT』で得た結果が血になっている感じというかね。逆にすごいミニマルな方向にも行くし、もうちょっと派手な方向にも行くし」。

 24ビット/96khzという情報量の多いデータでのレコーディングをするためにいままで使っていたドラムのサンプルをすべて録り直した、という音質面の強化や、日々ヴァージョンアップしているという中目黒のプライヴェート・スタジオに流れるゆっくりとした時間が今作には確実に刻み込まれている。5.1チャンネルのサラウンドを想定したプロダクションは、ダイナミックな疾走感を持ちながらも実にスムースに流れていく。この全編に漲るシームレスな感覚と関連して、インタヴューでは〈iTunes 7〉のヴァージョン・アップによるギャップレス(曲間が途切れることなく再生できる)機能をリスニング環境の変化として挙げていたが、今作はそんな機能を活かして楽しむことができる初めてのアルバムと言っても大袈裟ではないかもしれない。パノラミックなサウンドが織り成す麗しさに満ちた本作のなかでも、“MUSIC”はシングル“BREEZIN'”のカップリングとして収録されたYMO“CUE”のカヴァーにも通じる、シンプルかつナチュラルなサウンドに乗って彼の歌が飛び込んでくる。左右のチャンネルから放たれるランダムな言葉の欠片が、ひとつの物語として重なっていく様がスリリングな“Gum”や、かねてから交流のあったキングス・オブ・コンヴィニエンスが参加した“Omstart”では、「昔から外国人が歌う日本語の歌っていうのに妙に愛着があって、その距離感みたいなものを出したいなと思って。無国籍感、もしくはサイケ感みたいなものもあるし」と小山田も語るように、今作における〈声〉の復権といったものは、随所に感じられるシンセ・サウンド(“BREEZIN'”は、DTMソフトにバンドルされているシンセを用いてリフを作っていったという)と共に、このアルバムの通奏低音となっている。

 とはいえ、彼の音楽に過激なギミックや実験性を求めるリスナーは、今作に散見されるフラットな感覚に戸惑ってしまうかもしれない。全編を覆うオプティミズムが、そうした分析を阻んでいるかのようだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年11月02日 17:00

更新: 2006年11月16日 21:53

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/駒井 憲嗣