コーネリアスと共振した〈渋谷系〉当事者たち、それぞれの〈いま〉
フリッパーズ・ギターの『海へ行くつもりじゃなかった』、そして『カメラ・トーク』という2タイトルのリイシューが好評を博しているが、そんな今年は、90年代を華麗に彩った〈渋谷系〉を代表するアーティストたちが相次いで好作品をリリースしたエポックな年となりそうだ。その口火を切ったのは、3月に突如発表された元フリッパーズ・ギターの小沢健二による4年ぶりの新作『Ecology of Everyday Life 毎日の環境学』。全曲インストという内容には驚かされたが、豊かなニュアンスに富んだジャジーで深遠なサウンドスケープが印象的だった。また10年ぶりに再会した元ラヴ・タンバリンズのeliと斉藤圭市は新ユニット=girl it's Uを始動させ、6月にファースト・アルバム『girl it's U』をドロップ。ラヴ・タンバリンズにおいて特徴的だったソウルフルなフィーリングを引き継ぎつつ、よりアーシーかつブルージーなロック・サウンドを展開し、相変わらず迫力に満ちたeliの歌声と共に、研ぎ澄まされたふたりの現在地を伝えた。さらに90年代初頭の猥雑なUKシーンの熱気を体現したギター・バンド=VENUS PETERは12年ぶりの再結成を経て新作『Crystalized』を9月に発表。精力的なライヴ活動の勢いを凝縮したノイジーでサイケデリックなロック・サウンドは、いまも甘く危険な輝きを放っている。一方、『SENSUOUS』と同時期にリリースされるカヒミ・カリィのニュー・アルバム『NUNKI』は、大友良英らの実験的なサウンド・プロダクションにあの艶かしい囁き声を乗せた冒険作で、往時のフレンチ・ロリータ的イメージから遠く離れたクールな大人の女性像を提示している。さらに、『NUNKI』にも参加したヤン富田による、ドゥーピーズ名義では11年ぶりとなる復活アルバムも発表を控えている模様……と、かつてその〈雰囲気〉が形成したブームの渦中にいた人々は、ひたすらパーソナルでシンプル、そしてハイクォリティーなサウンドでいまも孤高の闘いを続け、ここにきてふたたび緩やかに連帯しているかのようだ。2006年のシーンに重く意味のある足跡を刻んでいるのは、コーネリアスだけじゃない。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年11月02日 17:00
更新: 2006年11月16日 21:53
ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)
文/内田 暁男