インタビュー

コーネリアス(2)

〈酸いも甘いも〉歌の土台となって……

 「音の配置の複雑さだったり、エディットや音を置く位置のシビアさという意味では『POINT』よりかなり精密なものになっていると思うんです。ただそれを一聴して感じさせないようにっていうのは意識としてあって。普通に聴けるんだけれど、奥にはすごくいろんなものがうごめいている、というか……」。

 さらに今作から立ち昇ってくるのは、音楽に真摯に向かうひとりの人間の姿だ。ラストにあるスタンダード“Sleep Warm”のカヴァーについて、彼はこう語る。

「たまたま父親のレコード棚を整理する機会があって、フランク・シナトラのレコードがいくつか出てきたんです。なかでも『Only The Lonely』っていうわりと内省的なアルバムがあって。50年代のアメリカってまだ未来に対する希望があって、そういう時代背景から生まれた曲なんだなっていうのをすごく感じたんです。その時代のエンターテイメント界で一流の作曲家、アレンジャー、ミュージシャンが集って、そのうえで〈ザ・ヴォイス〉と呼ばれたフランク・シナトラが歌っていて……。でもシナトラのエピソードとかを読むと、その〈酸いも甘いも〉みたいなことが土台となって歌に現れる、ということがわかるようになってきたんです。それにいまの時代から50年代をみると、また複雑な思いがあるし」。

 言うまでもなくコーネリアスは、ヤン富田が言うところの〈ポップとポップスの違い〉に意識的なアーティストだった。個人史のなかで無意識に影響を受けた音楽的背景と、スタイルとしてのポップスの歴史を重ねる作業を経て生まれた『SENSUOUS』は、その妥協を許さない冒険心が、胸が締め付けられるような思いや温かさとなって全編を覆っている。中目黒から届けられたその音は、街を一陣の風が吹くような清々しさを感じさせてくれるのだ。

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掲載: 2006年11月02日 17:00

更新: 2006年11月16日 21:53

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/駒井 憲嗣