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インタビュー

R. Kelly

頂点に立ってこそ見える景色がある──シーンの動向に目を光らせるハングリーな王者は、またしてもみずからの黄金時代を手繰り寄せた! 今度は倍返しだぜ!!

これまでの成功を倍にしたい


  R・ケリーの勢いが止まらない。スヌープ・ドッグ“That's That”やヤング・ジーズィ“Go Getta”といった人気ラッパーたちとのガチなコラボが次々にヒット。ファット・ジョーやスウィズ・ビーツらのリミックス・ヴァージョンにも起用されるなど、ここ最近ヒップホップ・サイドからのラヴコールが絶えない。作品力アップに繋がる効果的な共演者を探しているラッパーたちにとって、シンガーにしてはやけにタフな生き様とストーリーを持ち、ラップ的でインパクトの強いフレーズをさらりと歌い上げるケリーは、格好のコラボ相手なのだ。毛色の違ったフレイヴァーを入れたい、けれども普通の歌はちょっと──そんなニーズにケリーはぴったりとはまったのである。

 ところで、ケリーは今年でメジャー・デビュー15周年を迎えるにあたり、いわゆるコンセプト・アルバムを作っていたという。

「『Making Babies』っていうタイトルのアルバムで、妊娠期間の9か月それぞれをコンセプトにした9曲によるアンソロジーみたいな内容だったんだ」。

 しかし、ヒップホップ・アクトとのコラボがあまりにも好評だったのを受けて、ケリーはアルバムの方向性を変更するという決して小さくない決断を下した。

「プランをいったん白紙の状態に戻して考えたんだ。『Making Babies』用に録った9曲中4曲をピックアップして、さらに“Go Getta”や“That's That”みたいな曲をもう10曲このアルバムに追加したらどうかって。そしたら内容が『Making Babies』って感じじゃなくなっちまったんだ」。

 かくして新作は、「これまでの成功や功績すべてを倍にしたい」という思いを込めて『Double Up』とタイトルを改め、彼のキャリア史上もっともヒップホップ色の強いアルバムとなった。先行シングルは、ご存知“I'm A Flirt”。バウ・ワウとのデュエット・ヴァージョンがオリジナルながら、そのヴァージョンはバウ・ワウのアルバム『The Price Of Fame』にボーナス・トラックとして収録されたのに留まり、ケリーが新たにコラボ相手をT.I.らに変えたリミックスを発表してヒットしたという、ちょっと複雑ないきさつがある。

「オレのヴァースとフックが相当ヤバい仕上がりになったんで、バウ・ワウのレコード会社は〈これはR・ケリーのトラックだ〉って感じちゃったんだ。それで、レコード会社はプロモ・クリップを作ったりっていう発展をこの曲に求めなかったんだよ。だから、オレはこの曲を返してほしい旨を伝えて、仲間のT.I.とT・ペインといっしょにやり直すことにしたのさ」。

 そもそもはバウ・ワウ側から頼まれてのコラボだった曲を、ケリーはみずからの舵取りで自分の曲として作り直したわけだ。ケリーがT.I.やT・ペインに求めたものとは何だろう?

「彼らはスーパースターとしてのクォリティーを持ってると同時に、ハングリーな部分がある。オレがデビュー当時持っていて、いまも持ち続けてるハングリーな気持ちと同じようなものをね」。

 ホットなアーティストをフィーチャーするということ自体は、メインストリームの音楽において定石である。興味深いのはその人選。特にT・ペインだ。彼はラッパーからシンガーに転向したフロリダ出身のアーティストで、オートチューン系のヴォイス・エフェクト(ダフト・パンク“One More Time”などでお馴染みの声がひっくり返るアレです)を使った歌い回しで大ブレイク。男臭さ満点のエイコンに気に入られてソロ・デビューという話にも頷けるラッパー然とした風体を持ち、いまや〈ラッパー寄りシンガー〉の代表格と言って差し支えない人気ぶりを誇る。新作を聴く限り、ケリーはこのT・ペインの成功にインスパイアされたように思う。例えば“Leave Your Name”ではオートチューン系のエフェクトを全編に渡って使用。自身の世界を貫きつつも流行りの意匠を取り入れた格好だ。
▼『Double Up』に参加したラッパーの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年06月07日 20:00

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/荘 治虫