インタビュー

Shing02(2)

6年の長さに見合ったもの

 「簡単に言えば、これはひとつの映画で、曲のひとつひとつがそれぞれのシーンのようなものなんです。本に例えれば、いくつもの章から一冊の本が成り立っているような感じになりますね。ラップを編集するMCとしての自分もいれば、音楽面で工夫を凝らす自分もいる。また、そこから一歩引いて大きなブロックを動かしていく、監督のような面もありました」。

さらには、本人が〈人源サンプリング〉と謳うように、総勢30名にも及ぶ参加アーティストが鳴らした音の断片を取りまとめたのも彼自身だ。一人で何役も担うかのような作業工程は、さぞ膨大だったに違いない。そのぶん、それぞれの役割に対する思考回路の切り替えも大変だったろう。文学的なところがある歌詞には、ヴォリュームもあって、収録時間も長い。結果的にかかった月日の長さが、作品のそこかしこに並外れたスケールの大きさを与えている。聴いて真っ先に感じるのは、その長編の、圧倒的な重厚さだ。

「『歪曲』という題名は『緑黄色人種』(99年)を作っている時から浮かんでいました。音的に美しい感じがしたんです。曲の制作もずっとコツコツやっていました。曲を書き替えたり付け足したりという作業はほとんどなくて、もう何年も前からあるものを、全16曲を、同時にジワジワと仕上げていたんです」。

この6年の間にリスナーの音楽への接し方は激変して、音楽はより手軽に楽しめるものになった。ひとつの作品にこれほど時間をかけて作り込むというのは、最近ではもはや珍しくさえなっているのではないか。

「だからこそ、あえてこういうものを作ったというのもあるんです。日本語のアルバムを作るからにはそれだけの意思を込めたいというのがあったし、時間をかけるなら、それに比例するものを出さなくてはいけないというプレッシャーもありました。また、6年かけたからこそ、その長さに見合ったものを作れたともいまは思っています。その点では、時間をかけて良かったなと思っているんです」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年07月10日 19:00

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/栗原 大