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インタビュー

Shing02(3)

雰囲気が伝わればそれでいい

  その『歪曲』を音楽的に見れば、ヒップホップとダブの要素による基本構成に、伝統楽器などの非常に日本的な要素が合わさった、いかにもShing02らしい作りだ。そこに近年の活動が反映されたジャズ的な感覚と空間性が活かされ、いままでよりもスケールの大きなサウンドになっている。多重録音が多用されたラップは、どこかお経のようでもあり、催眠的だ。重厚な歌詞を含めて、〈ニッポン〉的な風合いがいままで以上に色濃くなっている印象も受けるだろう。歌詞のなかには僕らが使ったこともないような難しい言葉がたくさん出てくるものの、不思議と難解さは感じさせず、むしろ知的好奇心を刺激するおもしろさのほうが前面に出ている。つまり、シリアスな作品ではあるけれど、彼独特のユーモアは失われていないのだ。

「難しくすることを目的とすればいくらでもできると思うんです。でも、そこは意図していません。伝える手段であるからこそ、むしろわかりやすさが大切だと思っています。また、仮に聴いて意味がわからないことでも、雰囲気が伝われば僕はそれでいいと思っているんです。言葉だって、結局は膨大なヴォキャブラリーや言語の歴史に基づく〈サンプリング〉じゃないですか。それを引用してくるからには、何らかの意図がないと、意味のないランダムなものになってしまうと思うんです。そうやって意図を繋ぎ合わせることでおもしろい化学反応が起これば、なるべくしてなったということが聴き手に伝わると思うんです。それが〈文章の力〉じゃないですか。その前後にある言葉によって意味が引き出されるんです。これって凄く大切だと思っています」。

 さて、どこからどう噛み砕いていこうか。とにかく大作だ。レトリックや風刺、比喩なんかがたくさん詰まっているようで、それらを紐解くにも覚悟が要るかもしれない。ただ、当のShing02はこう語る。

「映画って、やっぱり最初に観た時の印象が、フレッシュで素直なリアクションじゃないですか。音楽もそれでいいんです。僕がどれだけの時間をこの作品にかけようが、受け手にはまったく関係がない。理解するとかしないとかではなくて、フィーリングの部分で何かが生まれることが重要なんです」。

 彼の音楽を具体的に分析する必要はまったくないようだ。とにもかくにも『歪曲』を一聴すれば、音楽の持つ作用というか、凝縮された魔法のような伝播力を感じずにはいられない。真剣な物だけが放つ何物にも代えられない尊さを、時間をかけてじっくりと味わうとしよう。では皆さん、永らく寵愛して頂戴……!
▼『歪曲』からの先行シングルを紹介。


2004年の『「歪曲」新来』(MARY JOY/EMI Music Japan)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年07月10日 19:00

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/栗原 大