インタビュー

Shing02が生まれ落ちた時代、共振した音楽たち

 Dragon Ashを呼び水に裾野を広げていった日本語ラップが、ZEEBRAやRIP SLYME、KICK THE CAN CREWらの成功を導くまさに狭間ともいうべきタイミングに、日本の〈シーン〉とさしたる繋がりのないShing02が登場したことは、ほぼ同時期に〈シーン〉の外から登場したTHA BLUE HERBと共に実に象徴的だった。Shing02の曲はいち早くDJ KENSEIにプレイされるなどしてアンダーグラウンドでの評価を高めていく。一般的認知の広がりに伴って言葉と意味の比重を軽くしていくように見えた多くの日本語ラップ勢とは対極的に、Shing02はサブカルチャーや古来の日本語表現も潜ませたヴォキャブラリーと知性で、ユーモアを交えて自身を表現するばかりか、日本の国家や社会に対する問題意識や、ファンタスティックに昇華されたストーリーさえも楽曲化する濃密な世界を披露。むしろ対極であるがゆえにヒップホップの外側で大きな注目を集めていくこととなった。

 やがて〈9.11〉に集約される殺伐とした時代の空気をすくい取る側面も一部あった彼の世界は、ナンバーガール~ZAZEN BOYSで向井秀徳が描く世界などとも共振し、社会意識の高さにおいてもより大きなフィールドに訴求。青森県六ヶ所村にある核燃料再処理施設問題を訴える〈STOP ROKKASHO〉プロジェクトでは坂本龍一らとTEAM6として楽曲を制作するに至っている。その一方で、Nujabesとのコラボもファンには記憶に残るであろう世界観とスタンスは、Shing02の背中を見てきたNOMAKらの世代との交流などをもってさらに広がっていくはずだ。
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掲載: 2008年07月10日 19:00

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/一ノ木 裕之