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インタビュー

54-71

現行の音楽シーンへ抱いたフラストレーションをブチ撒けるべく、眠れる獅子の創造性がついに目を覚ました。他の誰にも作り得ない〈54-71の音楽〉こそが真のオリジナリティーというのではないか?

所詮は音楽だ


  54-71はこの5年間、創作活動の面では実質的に活動休止状態だった。彼らは間違いなく、世界レヴェルのオリジナリティーを持ったハードコア・バンドであり、時代を先取るのではなく、さまざまな音楽と接触することで〈時代の音〉を創造することができる、稀少なバンドのひとつだ。それを証明するようにフォロワーの登場は後を絶たないし、ディアフーフやバトルスをはじめ、USインディー・シーンには54-71との共鳴を公言するバンドも多い。しかし彼らは、5年もの間沈黙してしていた。その理由を〈リーダー〉ことベーシストの川口賢太郎(以下同)は〈申し訳ないことだけど……〉と前置きしてこう続けた。

「昔は(メジャー・レーベルとの)契約があったから、無理やり作品を作っていたという部分も、正直に言ってあったんですよ。それが俺にとっては負担で。やっぱり、そんなに早いペースで〈これが俺の音楽だ〉と言える作品なんて出てこないし、だから誰かに似てしまったり、〈○○風〉と言われるような状態に陥ってしまう。それだけはやりたくないと思ったんです。そうして気付いたら5年も休んでしまっていて。実のところバンドを続けたいかどうかもよくわからなくなっていたんです。〈いまの(休止)状態に満足できなかったら、解散してもいい〉というところまではメンバーと話し合ったんですよ」。

 実は静かに、粛々と、バンドは解散の危機を迎えていたのである。音楽を必死で作り続けてきて、その音楽に真っ直ぐ向き合えなくなるほど特別な美意識を持っていた。しかし、その5年が過剰とも言える美意識を見つめ直すきっかけとなった。

「5年間で気付いた大事なことは、〈音楽なんて所詮は人間が生んだものだ〉ということなんです。それまでは生み出す音楽のすべてを自分でコントロールしなければ気が済まなかったけど、良い意味で〈所詮は音楽、所詮はバンドだ〉と思えたんです。そうしたら、まずバンドをやれる精神状態になったんです。もうひとつ重要だったのが、4人の音楽に対する意識が、5年休んだことで対等になったんですね。4人がバラバラな時は俺が絶対的な主導権を発揮してきたけど、4人が対等に並んでいるいまの状態を、記録として残しておきたいと思えるようになったんです」。

 そうして生み出されたニュー・アルバムには『I'm not fine, thank you. And you?』という、なんとも不機嫌そうなタイトルが冠されている。激しい怒りではなく、微妙なフラストレーションを漂わせるこの言葉には、現在の日本の音楽シーンに対する彼らの態度が表われているという。

「この5年間のうちに、人に薦められていろいろなバンドのライヴを観に行ったんですよ。でも、どれもこれも全然カッコ良くなかった。だからこそ、俺がやろうと思ったんです」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月14日 00:00

更新: 2008年08月14日 17:59

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/冨田 明宏