54-71(2)
やべぇ、音楽って楽しい!
本作は恐ろしくストイックな作品である。ビンゴのヴォーカルには強靭な芯が宿り、サウンドには縮み上がるほどビリビリとした緊張感が張り詰める。肉感的で生々しい音が、静寂のなかで間断なく産声を上げているような――バンド史上もっともプリミティヴな作品と言えるだろう。このようなドキュメンタリー的質感を手に入れるため、彼らはニルヴァーナやピクシーズなど数々のアーティストを手掛けてきたスティーヴ・アルビニを初めてエンジニアに起用している。
「癖はあるけど純粋に〈生音を録る〉ということに関しては、やっぱり彼が世界一ですよ。マスタリングはスティーヴと同じくシェラックのメンバーで、『enClorox』『true men non-doing』と過去2作でエンジニアをやってくれたボブ・ウェストンに頼んだんです。2人はいっしょにバンドをやってるだけあって、勝手知ったる仲ですからね。予想どおり良い形でいまの記録が残せました。あらかじめスティーヴに〈ボブにマスタリングを頼む〉と伝えておいたのが良かったのかもしれないな」。
本作では“idiot”“ceiling”“life is octopus”など、これまでの名曲をセルフ・カヴァーすることで54-71の過去と現在と未来をわかりやすく提示。また、パッケージにはリーダーが手掛けたブック・スタイルが採用されており、音楽的な部分だけでなく総合的な創造性が発揮されている。このような姿勢は、現在のバンドの前向きな勢いを象徴していてとても興味深い。彼らはこれまででもっとも素晴らしい精神状態にあるのだ。
「今回アルバムを作っていたら、〈やべぇ、音楽って楽しい!〉と思えちゃったんですよ(笑)。なので、12月にまたレコーディングすることを計画しています。これを作った勢いで次もやらないと、俺がまた6年くらい寝ちゃうから(笑)、やるなら今年しかない!と思って」。
そんなバンドの好調ぶりをアピールするかのように、インタヴュー終盤にはリーダーらしい発言が快調に飛び出しはじめた。〈それでこそ54-71!〉と手を叩きたくなるほどに、バトルスとの良きライヴァル意識を窺わせるコメントも。
「バトルスは初期のスタジオ・デモ音源が本当にヤバかった。あの時は正直、負けたと思いました。でもいまはね、全然負けてない(笑)。現在のバトルスはウソですよ、本気じゃない……って、こんなこと言ってるからメンバーのイアン(・ウィリアムス)に伝わっちゃったみたいで、〈あいつ、俺のことウソツキ呼ばわりしてないか?〉って言っているらしいんですよね(笑)」。
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