インタビュー

MONKEY(2)

最新ポップ・ミュージックの解毒剤!?

 もっとも、単にステージで使った音楽を収めたのではなく、表現方法を変えてロンドンと北京で1年に及ぶレコーディングを敢行。オーケストラの生演奏を用いたオペラに対して本作ではエレクトロニック・ビートを多用し、中国の民族楽器の響きや伝統音楽の様式との融合に挑んでいる。総勢100人以上の中国人ミュージシャンが参加したそうで、詞はオペラと同じ北京語だ。「現代の中国を反映させつつ、毛沢東主義時代の中国の思い出というか亡霊みたいなものも表現したかった。これら2つの中国を切り離して考えることはできないと思ったんだ。中国ではどの家にも毛沢東の写真があるから」とデーモンは説明するが、そういう意味ではオペラ以上に、西洋と東洋、古い中国と新しい中国のハイブリッドに仕上がっているのかもしれない。

「ステージではエレクトロニックな音やプログラミングをたくさん使うわけにはいかないんだ。繊細な声やアコースティックな楽器と合わせることが難しいからね。それにアルバムはオペラの物語を追ってはいるけど、中身が全然違う。ただこの一連のクリエイティヴな活動を形にしたかったというか、非常に現代的な作品に仕上がっていると思う。最近のポップ・ミュージックの解毒剤と言ってもいいかもね」(デーモン)。

 ちなみに、今回のように他のカルチャーに属する音楽を引用する際には〈オーセンティックさ〉という問題が常につきまとうわけだが、その点はデーモンも十分に敬意を払ったようだ。何しろ幼い頃から両親を通じて欧米圏外の音楽に親しんできた彼は、近年音楽を介した異文化との対話に積極的に取り組んでいるだけに、細部までこだわって──例えば22の収録曲はすべて東洋の五音音階に則って──構築したという。

「五音音階を使って曲を作るのはとても厳しい。だからこそやったんだ。制限があることがすごくおもしろかったよ。伝統的な中国音楽の成り立ちをすべて理解しているわけじゃないけど、かなり古いリズムを勉強してそれを活かすようにしたしね。北京から100マイル離れたところに住む中国人の作曲家に会いに行って、作曲のルールを訊いてみたんだ。中国の民謡の要素を教えてもらいたかったからね。そうしたら彼は分厚い民謡の名曲集を20冊ほど持ってきて、〈知りたいならこれに目を通すことだ。でも心配はいらない、いたって単純だよ〉と言ってくれたんだ」。

 一方、ジェイミーが本作のために描いたヴィジュアルもまさにハイブリッド。オペラ用のコンセプトを下敷きに、「中国の美術の本をたくさん観たし、旅をしながら何千枚も写真を撮ってすべて参考にしたよ」と話す。そして何よりも大きなインスピレーション源は、相棒が奏でる音楽だ。

「彼が作った音楽を聴いて、頭のなかで僕たちの〈西遊記〉を映画のようにして観ているんだ。それでデザインや絵に着手する。だから間違いようがないよ」。

 そんな相変わらずの阿吽の呼吸を見せつける2人は、モンキーの次なるステップとして、本作の世界を再現した巨大なテントを各地に設営しながら旅することを計画中だとか。

「テントの中は真っ黒で〈西遊記〉の世界に引きずり込まれる。ステージがあって、四川料理のレストランもあって美味しい料理も楽しめて、伝統的な足つぼマッサージもあるし、一晩中そこでフルに楽しめるんだ」(ジェイミー)。

 とはいえ、まずはアルバムでわれわれ日本人にとっても馴染み深い天竺への旅路を辿ってみるべし。それは東西を繋ぐ音楽の旅でもあり、ジェイミーとデーモンの創造の旅でもある。

「普通のアルバムと違ってシングルがあるわけではないし、全編とおしてひとつの作品だから、全部が聴きどころだよ。だからこそすべて聴かないとわからない。聴くことがひとつの経験、旅をするような感覚じゃないかな。ヴィジュアルも伴っているからイメージも作りやすいと思うし、緑茶でも飲みながら最初から最後まで良いステレオで聴いてほしいね」(ジェイミー)。

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掲載: 2008年09月04日 22:00

ソース: 『bounce』 302号(2008/8/25)

文/新谷 洋子