インタビュー

ANARCHY(2)

夢に生きてるだけや

 京都という、全国区アーティストの数という部分では他の地域に比べて遅れを取っていた土地から颯爽と登場したAnarchyは、若手ラッパーとしては異例の自伝(今年発行された「痛みの作文」)を出版してしまうぐらい、ユニークでハードな生い立ちを持つラッパーだ。この事実ひとつ取ってもファンタジーを掻き立てるものがあるが、彼の楽曲がただの不良自慢でないことは、2006年末にリリースされたファースト・アルバム『ROB THE WORLD』がすでに証明している。「あの時にしかできひんかったことができた、良いアルバムだと思う」と彼自身は振り返るが、事実、同作ではAnarchyがそれまで辿ってきた20数年の人生で感じてきた喜怒哀楽と、それらの感情によって培われた圧倒的な成功への執着心が見事に表現されていた。結果としてその年を代表するラップ・アルバムとなった同作は、インディー発のファースト・アルバムとしては異例の好セールスを記録したのだ。

 だが、音楽に対するAnarchyの溢れ出る情熱は、アルバムを一枚出しただけでは収まらなかったようで、約1年半という時間をかけて完成された今回のセカンド・アルバム『Dream and Drama』では、さらに濃縮されたその美学を堪能することができる。

「20数年間生きてきて、そんだけのモン書けるはずやのに書けへんかったっていうのが、俺が『ROB THE WORLD』を作った時に当時の自分ではできひんかった部分だと思うんですよね。今回のアルバムで初めて、生まれてからいままでの自分を表現できたと思うんですよ」。

 先述した、Anarchyの音楽に感じられる〈勝ち上がりたい/成功したい〉という純粋な思いは、そのまま新作のテーマである〈夢〉という言葉に置き換えることができる。京都市の南部・伏見区に位置する向島団地で生まれ育ったAnarchyにとっては、USのゲットーにも通じる閉鎖的で鬱屈した団地での日々からの(精神的な)脱出こそが〈夢〉であり、彼がヒップホップなライフスタイルを選んだ理由だ。

「俺ら、夢に生きてるだけやし。それがヒップホップという形になっただけで。別に何でもよかったわけじゃないですか、夢っていうのは。だから俺らにとってヒップホップは大事なんですよね。それがなくなったら夢がなくなるし」。

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掲載: 2008年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/伊藤 雄介