インタビュー

ANARCHY(3)

影響されてへんから、俺っぽくなった

  Anarchyにとってヒップホップは、ただ好きな音楽ジャンルというだけのものではなく、もっと切実な存在だ。「ヒップホップに出会わなければ、いま自分がどうなっていたかわからない」という発言はよくラッパーのインタヴューで目にするが、Anarchyほどその言葉に説得力や重みを感じさせる日本人ラッパーはそうはいないだろう。そんなひたむきな思いを、彼はシンプルな言葉で綴り、聴く者を圧倒するラウドな声でマイクにその思いを叩き付ける。50セント“Hustler's Ambition”などの制作で知られるB・マネー(一時は日本に在住)を筆頭とした海外のプロデューサーが大部分を占める、ストイックなハードコア・ヒップホップ・サウンドの助けもあり、今回の『Dream and Drama』は前作を遥かに超えるAnarchyの軸のブレなさと、純粋なヒップホップへの思いを表現しきった傑作となった。

「〈こんなんがイマ流行ってる〉とか、そんなん一切意識しいひんかったし、ホンマに自分がカッコイイと思う好きな音で、好きなラップでやろうと思ったんですよね。影響されてへんからさらに俺っぽくなって俺の味が出せてるんじゃないかな、と思う」。

 繰り返しになってしまうが、本作は彼のハードな生い立ちや、その見た目からだけで判断されるべきアルバムではない。Anarchyの音楽は、USのヒップホップに喩えると2パックのように、ハードな人生に裏打ちされながらも綴られるリリックはシンプルかつ普遍的であり、ゆえに詩的な素晴らしさが滲み出てくるものだ。『Dream and Drama』で聴けるメッセージに救われる人は多いだろうし、ヒップホップ・リスナー以外の層にも幅広く受け入れられる作品となるだろう。

「自分でも満足できるアルバムが出来て、その音源もそうだし、ライヴも一人でも多くの人に観せたいという気持ちでいっぱいです。出来たことはもう結果だし、これをどれだけ多くの人に聴かせられるか、と思ってるから、ライヴも観に来てほしい」。

 Anarchyの全国ツアーは10月中旬からスタートする。ぜひ、あの強烈な声とメッセージを生でも味わってみてほしい。
▼2008年にリリースされた、Anarchy作品をより深く知るためのサブテキスト。


Anarchyの自伝「痛みの作文」(ポプラ社)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/伊藤 雄介