インタビュー

Franz Ferdinand

心の奥底に潜んだ野性が目を覚ます夜には、こんなダーティーなポップスがよく似合う。いけないこととは知りながら、それでも今宵はあなたの仕掛ける甘い罠にハマりたくて……

真新しいバンドのような気分


  まずジャケットを見て、〈ん?〉と異変に気付いてもらえるだろう。過去2作ですっかりお馴染みとなった、バウハウスやロシア・アヴァンギャルドからの影響が色濃いジオメトリックかつシンプルなアートワークは、もうそこにはない。代わりにザラザラと粒子の粗いメンバー総出演のモノクロ写真が使われ、映し出されているのはなにやら殺人事件の現場だろうか? 〈近づくな!〉と言わんばかりに、アレックス・カプラノス(ヴォーカル/ギター)が手をかざしている。本人たちいわく、インスピレーションの源は20世紀半ばのNYの夜の顔を記録した写真家、ウィージーことアーサー・フェリグの諸作品だそう。

 果たして、中身もやっぱり違った。ここに完成した3枚目のニュー・アルバム『Tonight: Franz Ferdinand』で鳴っているのは間違いなくフランツ・フェルディナンドの音なのだが、ヴィジュアルと同様にシャープ&クリーンな感触で、縦に規則正しく跳ねていたビートが、まったり横に揺れたり、くねったり、妙に弾力を帯びている。完全にリズム・セクション主導で、アナログ・シンセがギターと同じくらい存在感を主張している。やけにダーティーで猥雑でデンジャラスな匂いがする。これまでも〈踊れるロック〉を志向していたバンドながら、こんなにファンキーなフランツは初めてだ。「ほら、最初の2枚のアルバムには一種の連続性があったと思うんだ」とアレックス(以下同)は証言する。

「どちらも同じようなアイデアに基づいていたというか、ファースト・アルバムのアイデアをセカンド・アルバムでさらに深く追求したっていうか。でも今回は違った。まったく違うものにしなくちゃならない、まったく別の場所に辿り着かなくちゃならないと感じていたのさ」。

 だとしたら彼らは目標を見事にクリアしたことになるが、そもそも前作『You Could Have It So Much Better』(2005年発表)を1年半のインターヴァルで届けてくれた4人が、今回は3年以上の空白を置いたことに不安を抱いていたファンもいるに違いない。聞けば、2003年のデビュー以来ノンストップで走り続けてきたバンドは、2006年末にワールド・ツアーを終えた時点で一旦立ち止まる必要を感じたのだという。

「それで4か月間のオフを取ったんだよ。僕らは消耗しきっていて、肉体的にもクリエイティヴな面においも充電し直さなくちゃならなかった。でもってサウンドを構築し直し、新しいアイデンティティーを手に入れる必要があったんだと思う。それゆえにこんなに時間がかかったのさ。でも休暇を終えて再会した時は、すごく興奮してたよ。たっぷり休養して意気揚揚としていたし……うん、まるで真新しいバンドを結成するような気分だったね」。

 そう、月並みな表現かもしれないけれど、初心に戻った4人は、アルバムの方向性に関しては前もって計画を立てず、完全に白紙の状態からスタート。

「あえて自分たちに〈なんにもわかんないぞ!〉と言い聞かせたんだ。その代わりに〈徹底的に実験しよう!〉と決めた。十分な時間を自分たちに与えて、音楽が導くままに任せようってね。あらゆる可能性に扉を開いた状態を維持したんだよ」。 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年01月22日 22:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/新谷 洋子