インタビュー

新作に妖しい音飾と猥雑なビートを仕込んだニクイ男、ダン・キャリーから目を離すな!

 フランツ・フェルディナンドがいっしょにアルバム作りを進めていたプロデューサーのブライアン・ヒギンスと袂を分かったのは、2008年3月のこと。そもそもガールズ・アラウドやシュガベイブスら、女性アイドル・ポップスの仕事で知られるヒギンスの起用は、バンドの〈ポップ〉へのこだわりを色濃く感じさせた。しかしその後、ポール・トムソン(ドラムス)は「ヒギンスと曲を書いてみて、もっといっしょにやろうと思ったけれど、うまくいかなかった。僕らは本当の意味でのポップ・グループじゃないことに突然気付いたってわけ」と交代劇について言及。最終的に新作のプロデュースはダン・キャリーが担当することとなった。

 とはいえ、過去2作を手掛けたプロデューサー、トーレ・ヨハンソンとリッチ・コスティが共にロックを得意とすることを考えると、ダンの起用はやはりフランツが新機軸をめざしていたことの表れ。なにしろ、もともと彼はダンス・ミュージックやインディー・ロックがポップスとクロスオーヴァーする地点で、プロデューサー/ソングライター/リミキサーなどとしてキャリアを積んできた人物だ。これまでの仕事を振り返ると、カイリー・ミノーグ『Body Language』収録の“Slow”やリリー・アレン『Alright, Still...』収録の“Cheryl Tweedy”での共同ソングライティングとプロデュース、M.I.A.やホット・チップ、CSSらのミックス、エミリアナ・トリーニやキース、そして2009年アルバム・デビュー予定の話題の新人ジョー・リーン・アンド・ジン・ジャン・ジョンなどをプロデュースしてきている。また、チルアウト・シーンで知られるロブ・ダ・バンクとのユニット、レイジーボーイ名義でも高く評価されており、ミュージシャンとしても豊かな才能を持っているというわけだ。ダンの音作りの特徴は、生音感のあるプログラミングと電子音を程良く重ね、それぞれの音色をクリアに響かせることで生み出す独特のヒネリと軽やかさだ。加えて、プリンスのファンだということもあり、彼の作るビートはファンクやR&Bを通過した跳ね感を湛えている。手掛けてきた顔ぶれからもわかるように、そのポップな手腕は実験的/インディー・マインドを持つミュージシャンのもとで発揮されてきた。そのあたりもフランツの資質とピッタリ合致している。近年、ポール・エプワースやバーナード・バトラー、ジェイムズ・フォードやマーク・ロンソンなど、腕のあるプロデューサーがロックの音に続々とおもしろいアイデアを付加して話題となっているなか、ダンも今回のフランツ仕事を機にその系譜に堂々と名を連ねることとなるだろう。


レイジーボーイの2004年作『Penguin Rock』(Sunday Best)

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掲載: 2009年01月22日 22:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/妹沢 奈美