インタビュー

Franz Ferdinand(2)

後ろめたい快感

 そして、故郷グラスゴーに新たに設けたスタジオにこもり、新鮮なサウンドを求めて楽器を探し集め、4人の音楽的蓄積を縦横に絡ませながら以後1年半、思いつくままに実験に興じてじっくりとアルバム制作に取り組んだのである。プロデューサーにダン・キャリーを選んだ理由も、「スタイル的に限定されていなくて、実験することに積極的」な人物だったからだそう。

「例えばポリヴォックス(80年代に旧ソ連で作られたシンセ)や珍しいモーグを入手して、シンセのフィルター・ユニットにギターの音を通してみたり、本来の使い道を無視して楽器を演奏したんだ。ドラム・セットの右側のシンバルを通常ハイハットがある場所に配置して、ポール(・トムソン)の叩き方が変わるように促したこともあったね。当然、失敗も山ほどあった。だからこそ1年半かかったんだよ。なにしろ40のアイデアを試して、そのうちひとつが成功するかしないかっていう確率だからね」。

 また、レコーディング中にたびたびミニ・ツアーを行なっていたのも、実験的な試み満載の新曲を、オーディエンスの反応を見ながら練るためだったという。

「ライヴで演奏すると、それをきっかけに曲が大きく変わる。僕たちの場合、昔からそうなんだけど、どの曲も3~4回は録音し直しているよ。そのつど進化していくのさ。それにライヴをやるとバンドとしてタイトになるよね。今回は大半の曲を同じ部屋で4人いっしょに演奏しながらライヴ録音したから、そういう意味でもツアーはすごく役立ったね」。

 このような実に気長なプロセスのなかで、徐々にダンス色の強いアルバムが姿を現し、さらには〈夜〉というキーワードが歌詞にもサウンドの空気感にも浮上した。だからタイトルはズバリ〈Tonight〉。そして、夜の町の犯罪現場写真を模したジャケットが生まれたというわけだ。

「この写真からは視覚的な不協和音が聴こえてくると思うし、いちゃいけない場所にいるみたいな気分になるんじゃないかな?」とアレックスが言うとおり、彼の制止を振り切って一歩踏み込めば、フランツ・フェルディナンドといっしょになにかいけないことをしたような、秘密を分かち合ってしまったかのような、後ろめたい快感が待ち受けているのである。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年01月22日 22:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/新谷 洋子