マデリンを支えるラリー・クラインとラウンダー
【ラリー・クライン】 90年代に一度デビューしていたマデリンから新たな持ち味を引き出し、見事に蘇生させたのがラリー・クラインだ。ジョニ・ミッチェルの公私に渡るパートナーとして知られた彼も、いまやオーセンティックで良質なポップスを生み出す名匠である。トレイシー・チャップマンやジュリア・フォーダム、マデリンと同じラウンダーに属するヴィエナ・タンの近作などではジョニに通じる独特の落ち着いた雰囲気を醸成。基本的に固定のミュージシャンを用いることで有機的かつ親密なムードを捻り出していく、モータウン的な録音作法がラリー作品の魅力の根源と思われ、ティル・ブレナーのここ数作やルシアナ・ソウザなど、ジャズからボサノヴァまでアウトプットは多様でも、その親密さは変わらない。ハービー・ハンコックのジョニ・カヴァー集でグラミーを獲得するなど、すでにプロデューサーとしての地位を盤石にしているが、マデリンに続いてメロディ・ガルドーの新作が控える2009年もまたラリーの年になるだろう。
【ラウンダー】 過日のグラミーを席巻したロバート・プラント&アリソン・クラウスの『Raising Sand』。日本からは捉えづらいものの、オーセンティックな歌とアメリカン・ルーツ音楽の滋養を溶かし込んだ広義の〈アメリカン・ポップス〉は想像以上に、かの地に暮らす人々の心に広く深く根差しているのだろう。そういったタイプの音楽をじっくり追求し、件の『Raising Sand』も送り出したレーベルこそ、70年にマサチューセッツで設立されたラウンダーである。当初はブルーグラス~カントリーやフォーク専門だったのが徐々に守備範囲を広げ、近年はマデリンの諸作やマーサ・ウェインライトの処女作に象徴されるような、ルーツィーな音楽性を基盤とした普遍的なポップ作品を多数輩出している。リサ・ローブやジュリアナ・ハットフィールド、ウィーンといった90年代の顔役たちが立ち寄っているのも興味深い。一方ではアリソンの伝統性を受け継ぐシエラ・ハルを見い出したり、メアリー・チェイピン・カーペンターやアーマ・トーマスのような大御所をバックアップするなど、世代も音もさまざま。先日にはJJ・ケイルの新作『Roll On』も登場している。かように、さながら〈ルーツ音楽界のブルー・ノート〉と形容したくなる陣容の多様性は、最近のレーベル・コンピ『Sinner's Prayer』からもよくわかる。
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