インタビュー

ARCTIC MONKEYS(2)

荒々しい音と対比させるような……

 実際に完成した『Humbug』を聴くと、アークティック初の大々的なオーヴァーダブが施された、ストーナー・ロックの特色のひとつでもあるサイケデリックなサウンドにまず耳を奪われることだろう。鉄琴やハモンド・オルガンなどさまざまな楽器を駆使しながら、ゆったりとしたリズムとライヴを通じて磨かれた演奏スキルの元で、これまでの彼らにはなかったタイプの音をここでは響かせている。ただ興味深いことに、この音はもちろん前作の焼き直しでも、QOTSAフォロワー的なものでもない。むしろ、〈アークティック節〉とすら呼べるほどの転調や複雑な構成を繰り返すことにより、あきらかにいまの彼らにしか生み出せない作品として成立させている。見事だ。

 バンドが培ってきた個性とサイケデリックな音を融合するにあたっては、恐らくジョシュの的確なアドヴァイスが大きな役割を果たしたに違いない。例えば歌声が柔らかくなったことを指摘した際、アレックスはこんなふうに話してくれた。

 「実はそのあたりについては、今回かなり意識しているんだ。ジョシュが助言してくれたんだけど、周囲の荒々しいサウンドと対比させるような形でヴォーカリストだけの空間を作るアプローチもできるって。それが、興味深いものを生むこともあるっていうようなことをね。僕がヴォーカルを録っている時、ジョシュはかなり熱が入っていて、みずからバッキング・ヴォーカルもやってくれたんだよ」(アレックス)。

 加えて、今作にはジョシュの盟友でもあるギタリストのアラン・ヨハネスがミキサーとして全レコーディングに参加している。レッド・ホット・チリ・ペッパーズの前身バンド=アンセムに始まりイレヴンなどでの活動を経て、ノー・ダウトやクリス・コーネル作品を裏で支えてきたこの〈LAオルタナ・シーンの顔〉にも、アークティックの4人はいたく刺激を受けたようだ。

 この『Humbug』で彼らはあきらかにUKギター・ロックから意識的に脱皮を図っている。その視線の先に見えていたものが何であるかは、レコーディングに参加した顔ぶれと、実際のサウンドを聴けば一聴瞭然だろう。そして、辿り着くべき地点をさらに超え、自分たちにしか出せない音を生み落としていることに、もはや感嘆を禁じ得ない。まったく、大したバンドだ。  


イレヴンの91年作『Awake In A Dream』(Morgan Creek)

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掲載: 2009年08月19日 18:00

ソース: 『bounce』 313号(2009/8/25)

文/妹沢 奈美