インタビュー

MIKA(2)

僕らは黄金なんだ!

 レバノンのベイルートに生まれ、戦火を逃れてパリへの移住を余儀なくされた。9歳の時には父親がクウェートのアメリカ大使館に監禁された。ロンドンのフランス人学校では酷いいじめに遭った。度重なる転校によって口を利くこともできない状態に陥った。そんな彼は、前作でみずからの幼少時代に何らかの決着をつけたわけだが、今度はその10年後を舞台にしている。ティーンネイジャーだった頃の自分に向き合い、より個人的な体験に立ち返って、現在の自分とこの世界を理解しようとしたのだ。

 「10代の頃は混乱に満ちていて、辛い時代だった。これまで僕はちゃんと自分の青春時代に向き合ったことがなかった。だから今回はしっかり向き合ってみたくなったんだ。あの頃、辛かったけど、僕は強い気持ちで前に進んでいた。他の人のやらないことを僕がやったら……つまり自分の気持ちを曲にして歌ったら、混乱から逃れられるんじゃないかと思っていた。自分の本質を変えることなく、この先も生きていけるんじゃないかと思っていたんだ」。

 では、実際に〈あの頃〉の自分に向き合ってアルバムを作る作業はどうだったのか。それは辛い作業ではなかったのか。

 「凄く辛くなる可能性もあったけど、そうはならなかった。というのも、怒りや悲しみに満ちた作品にするより、自信を持って前に進んでいた自分と、それを振り返る喜びのほうに絞り込もうと決めて臨んだからね。どんなに悲しいことがあっても、テーブルの上に立って両手を天にかざし、〈大丈夫、僕にはできる!〉って言えるような……それがポップ・ミュージックの素晴らしさだし、あの頃の僕を支えてくれたのもそういう音楽だったんだから」。

 思春期への落とし前。〈僕は酷い扱いを受けるべき人間じゃない〉〈僕はもっと凄いんだ〉。あの頃のミーカのその思いはいま、〈僕らはあなたが考えているような人間じゃない〉〈僕らは黄金なんだ〉という高らかな宣言となってキラキラ輝きながら世界に降る。“We Are Golden”――オープナーのこの1曲から最後まで、僕はもう昂揚して笑いながら泣き通しだよ。

▼ミーカの作品。

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掲載: 2009年09月16日 18:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/内本 順一