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インタビュー

THE DRUMS 『The Drums』

 

どこかで聴いたことのあるような、思わずスキップしたくなるような……底抜けに楽しくてとことん甘いメロディーが、終わらない夏を連れてきたよ! 準備はOK?

 

THE DRUMS_A

 

NYを離れたほうがいいんじゃない?

ブルックリンからまたしても注目のバンドが登場!──といっても、何か新しい実験をやっているわけでもないし、NYのアンダーグラウンド・シーンとも無縁だ。80年代のUKギター・ポップを思わせる、美しくてメランコリックなメロディーとリヴァーブが効いたサウンド。トリッキーさのカケラもないシンプルな歌が詰まったデビューEP『Summertime』で、海外の音楽メディアにセンセーションを巻き起こした。ヴォーカルのジョナサン・ピアースが語ってくれたドラムスという物語の始まりは、彼にとっての人生の再スタートでもあったようだ。

「当時、僕は人生のどん底にいたんだ。〈生きてて何が楽しいんだろう〉って思ったりしてね。そこにジェイコブ(・グラハム、ギター)から電話がかかってきたんだよ。〈お前、NYを離れたほうがいいんじゃないのか? フロリダに来て俺といっしょに曲を書こうよ〉って誘ってくれたんだ。〈前からいっしょに音楽をやろうって言ってたけど、今度こそ実行に移そうぜ!〉ってね」。

ジョナサンとジェイコブは子供の頃にサマー・キャンプで知り合い、いっしょにスミスを聴いて以来の親友だった。その後、2人は別々のバンドを組み、ジョナサンのバンドはメジャーとの契約まで漕ぎ着けたが、デビュー直前で空中分解。そのショックで落ち込んでいる時に、救いの手が差し伸べられたというわけだ。ジョナサンは新しい才能がシノギを削るブルックリンを抜け出し、強い日差しの降り注ぐフロリダへと向かった。

「僕もジェイコブも、お金はないし、車もないし、友達もいないタイプだったから、2人で部屋に引きこもってすべてのエネルギーを曲作りに注ぎ込んだんだ。その時2人で決めたルールは、流行りの音楽を聴かず、TVも観ないで、10代の頃に大好きだった曲だけを聴いて、自分たちが大好きな曲を作るということ。そうしているうちに不思議と元気が出てきて、音楽とまた恋に落ちたんだ」。

2人は生活を共にし、昼間は働きながら夜遅くまで曲を作り、ベッドルームでレコーディングした。その音源を〈MySpace〉にアップしたところ、モシ・モシからオファーがあり、2009年にEP『Summertime』を発表。同作の大きな反響を受けて、2人の数少ない友人であるアダム・ケスラー(ギター)、コナー・ハンウィック(ドラムス)を加えた4人編成で、待望のファースト・アルバム『The Drums』をリリースしたばかりだ。

 

最近じゃ〈ソング〉があまりないだろ?

「作っていた曲から夏っぽいものをまとめてEPにしたから、アルバム用にはちょっと影のある曲が残ったんだ。そのおかげでアルバムには僕らのパーソナルな部分がかなり表れていると思う。アルバムも全曲ベッドルームでレコーディングしたからね。実は一度スタジオに足を踏み入れたんだけど2時間くらいで出てきた(笑)。僕らのサウンドを損なうことがわかったからさ。最初はお金がなくてベースを調達できなかったのが悲しかったけど、それが僕ら独自のサウンドになっているから、いまとなっては喜んでるよ」。

ミニマルで硬質なギター・サウンドがジョイ・ディヴィジョンと比較されることも多い彼らだが、ジョンいわく「楽器が弾けないなかでベストを尽くしたっていう点では似ているかも。言ってみれば〈不完全さの魅力〉だね」とのこと。そして、その闇雲に疾走するDIYサウンドに、60sポップスを思わせるスウィートなメロディーが乗るのがドラムスの魅力だ。

「60年代のガールズ・グループからは凄く影響を受けているよ! シャングリラズとかロネッツなんかをレコーディング中によく聴いてたんだ。そこに気付いてくれたのはとても嬉しいな。ブルックリンでは、誰がいちばん変わっているか、いかにクレイジーなことをやっているかを競い合っているけど、僕らはもっとシンプルなものが好きなんだよね。街は音楽で溢れ返っているというのに、最近じゃ〈ソング(歌)〉ってあまりないだろ? だから僕らはシンプルで誠実な〈ソング〉を書くことに挑戦しようと思ったんだ。そう、〈ポップソング〉を書くことにね」。

お金も機材も何もない2人の若者が、思春期に影響を受けた曲だけを聴きながら夢中になって作り上げた〈ポップソング〉の数々。それはベッドルームというプライヴェートな空間で、〈歌〉という印画紙に焼き付けられた青春のポートレートだ。だからこそドラムスの曲には、歌を作ることの純粋な喜びと切実な思いに溢れていて、それが多くの人々に愛されている理由なのかもしれない。

「アルバムの1曲目“Best Friend”は、僕らが初めてギターを使って作った曲なんだ。それがいま、ラジオで流れてるっていうのは凄くクールだよ。たぶんそれって、みんなの気分を反映しているんだと思う。機械的に作られたような曲じゃなくて、もっとリアルな歌を受け入れる準備ができているってことなんじゃないかな。ツアー先でいろんな人から音をもらうんだけど、必ずそれを聴くようにしているんだ。そういう人たちの大半が僕らと同じようにベッドルームで音楽を作っていて、こっちもワクワクさせられるからね」。

ベッドルームから愛を込めて。ドラムスのシンプルな歌は、今日も素足で世界中を駆けめぐる。

 

▼ドラムスの作品を紹介。

2009年にリリースされたミニ・アルバム『Summertime』(Moshi Moshi/Co-op)

 

▼関連盤を紹介。

左から、ジョイ・ディヴィジョンの79年作『Unknown Pleasure』(Factory/London)、シャングリラズのベスト盤『The Millennium Collection: The Best Of The Shangri-Las』(MCA)、ロネッツのベスト盤『The Best Of The Ronettes』(Abkco)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年07月08日 19:08

更新: 2010年07月08日 19:12

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎