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インタビュー

JESSIE J 『Who You Are』

 

レディ・ガガへのUKからの回答——そう呼んだのは誰? もがきながら運命と闘い、苦境を乗り越えてここまで辿り着いた私に、そのようなタグは必要ない。私の名は……

 

私は妥協しない

アデル、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、エリー・ゴールディング、そしてここにご紹介するジェシーJの4者に共通する点。それは全員が、2008年に創設されたブリット・アワードの〈Critics' Choice(期待の新人に贈られる賞)〉に選出されたこと。そして、予測通りに大ブレイクを果たし、目下UKシーンの女性上位時代をリードしているってことだ。しかもそれぞれ見事にキャラも音楽性もバラバラなのだが、なかでもジェシーこそが、いちばん正統派のポップスターと呼ぶに相応しい人なのかもしれない。何しろUSのディーヴァたちと同じ土俵に立てる圧巻の歌唱力、ガール・パワーに根差したラウドな主張、世界基準のポップセンス、インパクト大のヴィジュアルを備えたこのエセックス育ちの23歳(本名ジェシカ・コーニッシュ)は、11歳にしてウェストエンド・ミュージカルでプロ・デビュー。続いてブリット・スクール(アデルやレオナ・ルイスら多数のアーティストを輩出したロンドンのパフォーマンス・アート専門校)に通って17歳でレーベル契約を手にしたという、ショウビズ街道まっしぐらな少女時代を送ってきた。

なのにアルバム発表までさらに6年を要したのは、所属レーベルの倒産といったビジネス面の要因のほかに、心臓に持病があるために入退院を繰り返していたことも関係している。

「そういう経験をすればどんな仕事をしていようと大きく影響されるでしょうけど、人生はいつ何が起きるかわからなくて、一瞬一秒を大切にしなくちゃならないってことを学んだわ。そして、私がこの世からいなくなったら、何よりも音楽を通して私という人間を知ってほしいから、音楽に向き合う気持ちに妥協はない。病気をしたことで、〈私は一切妥協しないし、絶対にやり遂げるわ!〉って背中を押されたと思ってるの」。

病気の影など一切感じさせない力強い声でそう話す彼女は、その後まずはソングライターとして開花。マイリー・サイラスに全米No.1ヒット“Party In The U.S.A.”を提供したほか、クリス・ブラウンからアリシア・キーズまで大物たちと続々コラボして、再出発のチャンスを掴むのだ。

「自分の曲をほかの人に歌ってもらえるのはステキなことよ。私からのプレゼントを世界中の人たちの前で開いてくれてるような感じで、〈何で歌うのは私じゃないの?〉とフラストレーションを覚えることはなかった。すべては何らかの理由があって起きると私は信じているし、私の出番はまだ先だったのよ」。

 

自分がやってることを信じる

従って、ジェシーが満を持して送り出したファースト・アルバム『Who You Are』(全英チャート最高2位)も6年がかりで完成された作品であり、大人へ成長する過程で彼女が経験したアップとダウンを網羅している。

「良いことも悪いことも、醜いことも美しいことも含めて、実体験に基づいた曲ばかりだからプライヴェートなんだけど、同時に〈彼女の物語なのに自分にも似てるわ〉と共感してもらえる曲を書きたかった」とジェシーは説明する。サウンド面もやっぱりヴァラエティーに事欠かず、「タイプが違うシングルの集まり」をめざしたというだけに、DrルークからUK発の新進チーム、インヴィジブル・メンまで、英米ミックスのプロデューサーたちの手を借りて鳴らすエッジーなポップソングの数々に、レゲエやR&Bをはじめ多彩なスタイルを反映させている。

「私の場合、幸運にも両親の音楽の趣味が素晴らしくて、ビートルズやストーンズからアレサ・フランクリンにオーティス・レディング、スパイス・ガールズにTLCにマライア・キャリーに至るまでいろんな音楽に接してきたから、特定のスタイルじゃなくて広い意味での音楽ファンなの。そういう嗜好がアルバムに表れているし、自分が属する世代を象徴するアーティストになりたかった。私は毎日同じような服を着たり、同じものを食べたり、同じ曲ばかり聴いたりしない。みんな常に多様性を求めているのよ」。

そんな読みがずばり的中して急速に支持を集め、USを含む世界各地でシングル“Price Tag”がチャートを上昇。いまやアデルやタイニー・テンパーと共にアーバン・ポップによるブリティッシュ・インヴェイジョンを展開し、国内外で快進撃中のジェシーなのだが、苦労人であるせいか、実に冷静に自分の活動スタンスを語る。

「早い段階で〈Critics' Choice〉みたいな栄誉に浴したことを誇りに思っているけど、だからって甘えていいわけじゃない。大きな期待を背負っているんだから、よりいっそうのハードワークが必要だと思う。それに、そもそも私自身が自分というアーティストを信じていなかったら誰も私を信じてくれないわ。だから自分を信じるしかないし、自分がやってることに関して一切弁明はしない。音楽が、歌うことが大好きだから」。

 

▼関連盤を紹介。

“Price Tag”に参加したB.o.Bの2010年作『The Adventures Of Bobby Ray』(Rock Solid/Grand Hustle/Atlantic)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年06月01日 18:00

更新: 2011年06月01日 22:17

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/新谷洋子