インタビュー

Jean-Marc Luisada



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シューベルトは生涯極めていきたい作曲家

ソロのみならず幅広い活動を展開しているジャン=マルク・ルイサダが、初めてシューベルトの録音に挑んだ。ピアノ五重奏曲「ます」をフランスの若きモディリアーニ四重奏団と共演し、ピアノ・ソナタ第4番、即興曲作品90-4を組み合わせた選曲である。

「シューベルトは何度弾いてもどんな作品を弾いても、けっして完成した演奏ができない。つまり常に勉強し続けなくてはならないと教えてくれるのです。でも、数年前から演奏会で取り上げるようになり、自分のなかで音楽的なインスピレーションが湧き、音色の多彩さも生み出すことができるようになり、新しい道を探求したいと思うようになったのです」

モディリアーニ四重奏団は2003年に結成されたカルテット。2005年にニューヨークのヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディションで優勝してから国際舞台で活躍、いま注目を浴びている逸材だ。

「彼らはとても自発性のある才能豊かなグループ。『ます』はピアノがリードする役割を担うわけですが、弦楽器との音の対話がとても重要。今回は非常に濃密なコラボレーションができたと思っています」

ルイサダは昔からシューベルト特有の世界に魅せられ、夢とノスタルジックな感覚を抱き、その奥に深い苦しみ、悲哀、緊張感などが潜むことを見出した。

「シューベルトを演奏していると、モーツァルトの人間的な無邪気さと、ベートーヴェンの技術的な難しさの両面を感じることができます。私は昔からアマデウス四重奏団、パウル・バドゥラ=スコダをはじめシューベルトのさまざまな演奏や録音に耳を傾け、そのなかから作曲家の魂を理解しようと努力してきましたが、やはり晩年のピアノ・ソナタや即興曲が内包するえもいわれぬ哀しみに満ちあふれた情念の世界、虚無感、やさしさ、様式の奥深さには本当に感銘を受けます」

このシューベルトは2008年10月に軽井沢大賀ホールで収録されている。ルイサダは親日家として知られ、 るが、初めてのシューベルトは日本で生まれた。

「日本の昔の映画も大好きですよ。私の映画好きは有名ですが、いまはパリで映画と演奏をともに楽しむイヴェントを行い、多くの人が楽しんでくれます。本当はアルフレッド・コルトーの時代のように、文学サロンや小さな美術館のような場所で聴衆を身近に感じながら演奏したい。映画館にピアノを入れて演奏しているのも、聴衆を音楽に近づけたいと願うからです」

イヴェントでは80ページにおよぶ作品に関した原稿を読み上げたという。今後の夢は、シューベルトの即興曲全曲録音をすること。シューベルトならではの類い稀な世界を聴き手と分かち合いたいと力を込めた。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年11月06日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text:伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)