インタビュー

Jazztronik(3)

新たな可能性への挑戦

 一方、後発の『en:Code』は、エヴァートン・ネルソンによるストリングスが印象的で、荘厳ささえ感じさせる10分以上の組曲“PATHWAYS(JAZZTRONIK THEME)”からスタートする。

「実はプログレ好きなんですよ(笑)。プログレっていろんな要素が入ってるじゃないですか、ロックやジャズ、クラシックだったり。今の空気も入れつつ〈Jazztronik版プログレ〉ができればいいなと思ってて、本当になんとなく作っていたらひょこっとできちゃった曲なんですよね」。

 情熱的な『CANNIBAL ROCK』と対を成すように、『en:Code』は実験的でクールな面が強調されている。マルコス・ヴァーリ、ジャスト・ワン、鼓童、葉加瀬太郎といったバラバラな要素が見事な音響工作でひとつにまとめられ、彼のビートへの研ぎ澄まされた感覚が伝わってくる。

「やっぱり僕が今もずっと好きでいるのはニュー・ジャズ的なものだし、DJでかけてノレるのもブロークン・ビーツなんです。ただマルコス・ヴァーリとの“RIO SOL E MAR”も完全なブロークン・ビーツではなくて、パルチード・アルトというリズム(註:サンバの一種)を混ぜているんですよ。僕自身も新たなブロークン・ビーツにチャレンジした曲ですね」。

 他にも“ALL INSIDE”という7拍子の楽曲では半野喜弘が参加してブレイクビーツの可能性を野心的に拡げていたり、『CANNIBAL ROCK』に続いて参加したロブ・ギャラガーのヴォーカルと変則的なビートの絡みがスリリングな“CITY OF RIVERS”と、異なるテクスチャーをスマートに融合させてしまう折衷感覚はここでも如何なく発揮されている。そのスマートな手捌きこそがJazztronikを語るうえで外せない言説――〈J-Popとクラブ・ミュージックの橋渡し的存在〉という形容の所以だと思うのだが……。

「僕がクラブで遊びはじめた10年ぐらい前は、格好良いサウンドでみんなが歌えるような日本語の歌が普通にクラブで流れている状況があったんです。大沢伸一さんがやってたものだったり。だから僕はそこに壁をあまり感じていなくて。ただ最近、いろんな音楽が細分化されてきているのが、音楽を楽しむうえで凄くもったいないなぁと思っていて。特に『CANNIBAL ROCK』には格好良かった頃のアシッド・ジャズ色をいまの解釈でやっているところはあるかもしれないですね。それこそガリアーノとかが出てきた時っていうのは衝撃的でしたから。10年前に僕が味わったおもしろさをいまの感覚で感じてほしいなっていうのはありますね」。

 どんなに機能的なダンス・ミュージックをやろうとも、日本人としての歌心やメランコリーを大切にしながら、それをセンシティヴに、そして大胆に開拓していく彼の美意識は変わらないのだと思う。そしてそれこそJazztronikの魅力なのではないだろうか。
▼『en:Code』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2005年10月13日 16:00

更新: 2005年10月27日 18:11

ソース: 『bounce』 269号(2005/9/25)

文/駒井 憲嗣